バーチャルオフィスで事業を営む場合でも、融資による資金調達が可能です。事業の実態や代表者の信用をしっかりと証明し、事業内容にも妥当性があると認められれば、十分に審査に通過できます。
しかし、一般的な賃貸オフィスと比べて条件が厳しくなる可能性があることも事実です。円滑に資金調達を行うためにも、審査のポイントや注意点を把握したうえで、入念に事前準備を行いましょう。
本記事では、バーチャルオフィスで融資を受ける際の審査ポイントや事前準備、注意点などを解説します。
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バーチャルオフィスでも融資は受けられる?
バーチャルオフィスで事業を営む場合でも、融資を受けられる可能性は十分にあります。しかし、一般的な賃貸オフィスと比べて条件が厳しくなる恐れがあるため要注意です。
ここでは、バーチャルオフィスでの融資申請の実態や利用できる融資制度を解説します。
【結論】融資は可能だが条件が厳しくなる場合がある
結論からいえば、バーチャルオフィスでも融資による資金調達は可能です。しかし、賃貸オフィスと比べて条件が厳しくなる場合があります。
バーチャルオフィスは物理的なオフィススペースを持たないため、事業の実態を把握しづらい傾向があります。融資側にとっては、資金が悪用されたり、本来の用途以外で使用されたりするリスクにつながるでしょう。そのため、一般的な賃貸オフィスと比べて、厳格に審査が実施される傾向があります。具体的には、事業の実態を証明する書類の提出や、入念なヒアリングを求められるなどです。
また、融資を受けるには前提として銀行に法人口座が開設されている必要があります。バーチャルオフィスの場合、口座開設の難易度が賃貸オフィスよりも高く、間接的に資金調達の難易度が高まる恐れがあります。
さらに、各自治体が実施する制度融資では、バーチャルオフィスを用いる事業者は対象外となるケースが少なくありません。資金調達の手段が限られてしまう点もデメリットといえます。
とはいえ、近年はバーチャルオフィスの活用が融資に悪影響を与えることは少なくなっています。適切な融資制度を選択して入念に事前準備を行えば、バーチャルオフィスでも問題なく審査に通過できるはずです。
バーチャルオフィスで利用できる融資制度
バーチャルオフィスで利用できる代表的な融資制度は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。
日本政策金融公庫は政府が運営する金融機関であり、小規模事業者の支援に力を入れています。民間の金融機関と比較して、設立直後の企業でも審査に通りやすく、バーチャルオフィスを理由に一律で断られることもありません。
最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)の資金を調達でき、担保・保証人は柔軟に相談することが可能です。自治体の制度融資と比較して若干金利が高い傾向がありますが、バーチャルオフィスで資金調達を行うなら有力な選択肢でしょう。
また、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」以外にも、以下のような融資制度があります。
- 制度融資
- 銀行融資
ただし、制度融資は各自治体でバーチャルオフィスの取り扱いが異なります。
銀行融資は各銀行で審査の傾向が異なりますが、口座開設の難易度を考慮して有力なのはネット銀行の融資(ビジネスローン)でしょう。信用金庫と地方銀行では、バーチャルオフィスで口座開設ができない場合があり、大手銀行は大手企業を中心に融資を行うためです。しかし、ビジネスローンは借入限度額が低く、一般的な銀行融資よりも金利が高めなので注意が必要です。
金融機関が審査で重視するポイント
金融機関が融資の審査で重視する主なポイントは、以下の5つです。以下では、それぞれのポイントを詳しく解説します。
- 事業の実態
- 代表者の経歴や信用情報
- 事業計画書の信頼性と妥当性
- 自己資金の有無とその比率
- ヒアリング(面談)での様子
事業の実態(所在地・実績・事業内容など)
融資の審査では、所在地や企業の実績、ビジネスの内容といった事業の実態が確認されます。事業の実態とは「本当に事業が営まれているかどうか」のことです。事業の実態が確認できないと、審査担当者に以下のような懸念を与える原因となります。
- 本来の用途以外で資金が使われるのではないか
- 事業が継続的に運営されないのではないか
資金が悪用される、または返済される見込みがないと判断されると、融資の審査には通過できないでしょう。
特に、バーチャルオフィスは物理的なオフィス空間がないため、事業の実態を確認しづらい傾向があります。また、過去に詐欺やマネー・ローンダリングに悪用された事例があることから、より厳格に審査が実施されます。
バーチャルオフィスで融資の審査に通過するには、いかに事業の実態を伝えるかが重要です。
代表者の経歴や信用情報
融資の審査においては、代表者本人の経歴や信用情報が確認されます。
起業直後で実績がない時期は、代表者の経歴や実績が企業の実績と捉えられます。たとえば、事業内容と代表者が経験してきた業種が一致していれば、審査担当者の信頼を得やすいはずです。また、代表者の信用情報に問題がなければ、融資の返済が遅延なく履行される可能性が高いと判断されるでしょう。
一方、滞納や債務整理などの経歴がある場合、返済リスクが高いと判断され、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。代表者の信用情報に問題がある場合、別の代表者を立てる、またはブラックリストから外れるまで待つといった対策が求められます。
事業計画書の信頼性と妥当性
事業計画書の信頼性や妥当性も融資の審査で重要視される要素です。
融資の審査の目的は、適切に返済が行われるかを見極めることにあります。そして、返済能力を裏付けるためには、事業計画書の内容をもとに以下のように評価してもらう必要があります。
- 今後成長が見込まれるビジネスである
- 事業に持続可能性がある
- 矛盾や穴がなく信頼できる事業内容である
つまり、返済能力を示せる質の高い事業計画書を作成することが重要です。
一方、事業計画書の内容に矛盾があったり、資金計画が非現実的だったりすると、返済能力がないと判断される恐れがあります。さらに、代表者本人の能力が低く、信頼性がないという印象を与える可能性もあるでしょう。
自己資金の有無とその比率
金融機関が融資の審査を行う際は、自己資金の有無・比率を重視します。自己資金を十分に確保していれば、審査担当者に以下のような印象を与えられます。
- 資金を用意する能力がある
- 事業への熱意・覚悟がある
一方、自己資金がない、または限りなく少ないと、事業への本気度や資金を用意する能力が足りないという印象を与える恐れがあるでしょう。
融資制度や金融機関ごとに自己資金割合の最低ラインを定めているケースが少なくありません。たとえば、借入額が1,000万円で10%の自己資金割合が求められる場合、最低でも100万円の自己資金が必要です。
一般的に自己資金割合は高いほど審査に有利になります。資金調達額の3分の1程度を自己資金として確保できれば理想です。また、融資とは関係なく、事業の資金繰りが安定することになるので、起業時には十分な自己資金を用意しましょう。
ヒアリング(面談)での様子
融資の審査では、担当者と代表者のヒアリング(面談)が実施されます。ヒアリングでは、以下のような内容が質問されます。
- 創業の動機
- 過去の経歴
- 事業計画
- 商品・サービスの内容
- 資金調達の状況
- 事業の見通し
- 事業所の所在地
ヒアリングでは、質問の内容についてわかりやすく説得感のある回答をすることが大切です。返済能力があると適切に伝えられれば、審査において高評価につながります。事前に受け答えの練習や資料・サンプル商品の準備などを行いましょう。
また、当日の立ち振る舞いや服装も審査担当者への印象を左右します。話の内容が同じでも、ビジネスフォーマルな服装であり、立ち振る舞いが適切であれば、代表者の真摯さや信頼性を伝えられます。
バーチャルオフィスで融資審査に通るための準備
バーチャルオフィスで融資の審査に通過するために重要な準備は、以下の4つです。以下では、それぞれの準備について詳しく解説します。
- 信頼性の高いバーチャルオフィスを選ぶ
- 事業実態を示す資料の整備
- 面談時に事業の展望を具体的に伝える準備
- 可能であれば事務所や作業場の「実在性」もアピールする
信頼性の高いバーチャルオフィスを選ぶ
融資の審査に通過する確率を高めるためには、信頼性の高いバーチャルオフィスを選ぶことが重要です。バーチャルオフィスは賃貸オフィスと比較して信頼性が課題となり、信頼性がないと判断されると融資の審査に悪影響を及ぼします。
信頼できるバーチャルオフィスであり、適切に事業を運営できる環境が整っていれば、不正利用の疑いを持たれなくなるでしょう。具体的には、以下のような要素を踏まえてバーチャルオフィスを選択しましょう。
- 厳格な審査が実施されているか
- 運営会社に信頼できる実績があるか
- サービスの提供歴は長いか
- バーチャルオフィスの所在地で犯罪やトラブルが起きていないか
- 来客対応や郵便物の転送など、事業を円滑に進められる環境であるか
前提として、法人登記が可能なバーチャルオフィスであることも重要です。法人登記が認められていないケースもあるため事前に確認しましょう。
また、バーチャルオフィスであることは隠さず、正直に伝えることをおすすめします。バーチャルオフィスであることを隠して融資を受けようとすると、かえって信頼性の低下を招く恐れがあります。
事業実態を示す資料の整備
先述したとおり、バーチャルオフィスで融資の審査に通過するためには、事業の実態を適切に伝えることが重要です。具体的には、面談時に以下のような資料を提示するのが有力な手段となります。
- 会社案内・パンフレット
- ホームページのURL
- 商品のサンプル
- 証憑類(契約書/請求書/見積書など)
- 名刺・SNSアカウント
客観的な証拠を提示することで事業の実態を証明でき、円滑に審査が進みやすくなります。ただし、審査に通過するための簡素なホームページや運用歴がないSNSアカウントなどはかえって不信感につながるため要注意です。
面談時に事業の展望を具体的に伝える準備
面談時に事業の展望を具体的かつわかりやすく伝えるための準備を行いましょう。面談時には、以下のように事業計画書の内容を深掘りする質問をされる可能性があります。
- 財務計画に記載された金額の根拠
- 競合他社や顧客層
- 計画通りに利益が出ると判断する理由
- 想定されるトラブルとその対応
審査担当者の質問にわかりやすく回答すれば、事業内容に対する理解が深まり、返済能力の有無を適切に判断してもらえるようになります。また、代表者本人の能力が優れていると判断され、信頼性の向上にもつながるでしょう。
そのためにも、聞かれそうな質問を事前に想定し、具体的に回答する練習をしましょう。事業計画書には記載されていない情報を含めつつ、必要に応じて補足資料を提示すると効果的です。
可能であれば事務所や作業場の「実在性」もアピールする
可能であれば、事務所や作業場の実在性をアピールしましょう。
バーチャルオフィスを活用しても、本店所在地の他に、実際に仕事を行う事務所や作業場が存在するはずです。実際に仕事を行う場所の実在性をアピールすれば、事業の実態を証明でき、審査担当者からの信頼を得られます。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 作業場の賃貸借契約書を提示する
- 作業場の見取り図を作成する
- 自宅の作業スペースの写真を撮影する
- 作業場の所在地が記載された法人設立届出書のコピーを提出する
アピールが難しい場合は必須ではありませんが、円滑に審査が進む可能性が高くなるでしょう。
バーチャルオフィス利用時に融資を検討する際の注意点
バーチャルオフィス利用時に融資を検討する際は、以下の点に注意しましょう。以下では、各注意点について詳しく解説します。
- 融資が通らない場合のリスクと代替手段を考える
- 自治体の助成金・補助金などもあわせて検討する
- 税理士や創業支援機関への相談を活用する
融資が通らない場合のリスクと代替手段を考える
バーチャルオフィスに限った話ではありませんが、融資の審査には必ずしも通過できるとは限りません。融資の審査に落ちた際のリスクや代替手段を事前に考えましょう。
融資の審査に落ちてしまうと、資金不足により事業を開始できないリスクが発生します。別の手段で資金調達ができても、スケジュールが遅れる可能性があるため、対応方法を事前に決めておきましょう。
融資の審査に落ちた際の代替手段には、以下のようなものがあります。
- ネット銀行のビジネスローンに申し込む
- ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を募る
- クラウドファンディングで資金調達を行う
- 助成金や補助金を活用する
それぞれメリット・デメリットが異なるため、個々の実情に応じて最適な手段を検討しましょう。
自治体の助成金・補助金などもあわせて検討する
融資単体で資金調達を行うのではなく、助成金や補助金などをあわせて活用する選択肢も有力です。助成金・補助金とは、一定の要件を満たす方を対象に資金提供がされる自治体や国の制度です。各都道府県や自治体では、創業者向けの助成金・補助金制度が提供されているケースがあります。
助成金や補助金と組み合わせて資金調達を行う主なメリットは、以下のとおりです。
- 借入金額が減ることで返済負担が軽減され、資金繰りの安定化につながる
- 補助金の審査に通過することで融資の審査時に対外的な信用を示せる
- 申請の過程で事業目標や事業計画が明確化され、質の高い事業計画書を作成できる
ただし、助成金・補助金は後払いが前提であるため、立替払いを行う資金力が求められます。さらに、必ずしも採択されるとは限らず、申請にも労力がかかります。
助成金・補助金の制度は各自治体で異なるため、ホームページを確認してみましょう。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「中小企業ビジネス支援サイト」でも情報がまとめられています。
税理士や創業支援機関への相談を活用する
融資による資金調達を検討する際は、税理士や創業支援機構への相談をおすすめします。専門家に相談することで、審査を円滑に進めるためのポイントや事業計画書の内容についてアドバイスを得られます。
また、金融機関の紹介を受けられる可能性がある点も魅力です。税理士を含む信頼性の高い人物からの紹介であれば、代表者本人も信頼されやすく、資金調達に成功しやすくなるでしょう。
バーチャルオフィスのなかには、税理士によるサポートや資金調達に関する相談を提供しているケースがあります。バーチャルオフィス特有のアドバイスを受けられる可能性があるため、サービス選びの参考材料にしましょう。
まとめ
バーチャルオフィスでも融資の審査に通過することは十分に可能です。しかし、一般的な賃貸オフィスと比べて条件が厳しくなる可能性があるため、審査項目を踏まえ、入念に事前準備を行いましょう。
バーチャルオフィスでの資金調達においては、事業の実態や信頼性、事業計画の妥当性などが重要となります。事業の実態を証明する書類や綿密な事業計画書を用意し、資金調達の成功を目指しましょう。
まずは、自分に最適な融資制度や専門家に相談すべきか否かを判断してみてはいかがでしょうか。
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