結論からいえば、バーチャルオフィスであっても法人口座の開設は可能です。実際に、口座開設に成功している例は多く、バーチャルオフィスでも審査には影響しないと明言している銀行も存在します。
しかし、通常の賃貸オフィスと比較して審査が厳しい傾向があることも事実です。バーチャルオフィスで法人口座を開設するには、審査の傾向や特有の注意点を踏まえ、入念に事前準備を行うことが重要です。
本記事では、バーチャルオフィスで法人口座を開設する際の審査ポイントや対策、注意点などを解説します。
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バーチャルオフィスとは?
バーチャルオフィスとは、物理的なオフィス空間を持たず、事業の所在地として利用できる住所を貸し出すサービスです。ここでは、バーチャルオフィスの基本的な仕組みと起業家やフリーランスに選ばれる理由を解説します。
バーチャルオフィスの基本的な仕組み
バーチャルオフィスを契約すると、バーチャルオフィスの住所を事業の所在地として公開できます。具体的には、法人登記時の本店所在地や名刺・ホームページに記載する事業所の所在地として利用可能です。
ただし、物理的なオフィス空間を持たない特性上、自宅などに別途仕事を行う空間が必要です。その分、賃貸オフィスと比べて料金は格安であり、自宅で働く事業者や信頼性の高い住所を活用したい企業などに利用されます。
また、バーチャルオフィス事業者によっては、住所貸し以外にも、以下のようなサービスを提供しています。
- 郵便転送
- 電話秘書サービス
- 貸会議室の提供
- 法人登記サポート
- 法人口座開設サポート
- 受付サービス
- 各種士業の紹介
定期的な打ち合わせ場所として会議室を確保したい方や、電話や郵便物に柔軟に対応したい方などが利用することも可能です。ただし、各種サービスの有無はバーチャルオフィスによって異なるため、事前に確認しましょう。
なぜ起業家やフリーランスに選ばれているのか
バーチャルオフィスは、以下のような理由から起業家やフリーランスに選ばれています。
- 賃貸オフィスと比べて格安で利用できる
- 都心一等地の住所を事業所として公開できる
- 自宅住所の公開が不要となり、プライバシーが保護される
- 事業のイメージアップや信頼性の向上に寄与する
都心一等地の賃貸オフィスを契約する場合、莫大な初期費用や固定費が発生します。また、自宅住所を事業所として公開すると、プライバシーのリスクが発生し、対外的な信用も損なわれる恐れがあるため要注意です。
そこで、バーチャルオフィスを活用すれば、費用を抑えつつ対外的な信用を得られ、プライバシーのリスクも防止できます。結果的に生産性が向上したり、安心して事業を運営できたりするでしょう。
▼バーチャルオフィスの概要や選ばれる理由について詳しくはこちら
バーチャルオフィスで銀行口座は開設できるのか?
バーチャルオフィスでも銀行口座の開設は可能です。しかし、一般的な賃貸オフィスと比較して審査が厳しい傾向があります。
ここでは、バーチャルオフィスで銀行口座を開設する際の審査の傾向や、警戒される理由などを解説します。
【結論】開設は可能だが審査は厳しめ
結論として、バーチャルオフィスでも法人口座の開設は可能です。実際に、一度の申請で法人口座の開設に成功した事例も多くあります。
ただし、通常の賃貸オフィスと比べて厳しく審査される傾向があります。審査で見られる具体的な傾向は以下のとおりです。
- 追加の提出書類(契約書のコピーなど)を求められる
- 事業の実態(事業内容/資本金など)を入念に確認される
- 不信感を持たれたら審査に落とされやすい
また、実際に仕事を行う場所と本店所在地が異なるバーチャルオフィスでは、そもそも口座を開設できないケースがあります。特に地方銀行や信用金庫で見られる傾向です。
金融機関がバーチャルオフィスを警戒する理由
金融機関がバーチャルオフィスを警戒し、厳しく審査を行う理由として、口座を犯罪目的で利用された事例が多発したことが挙げられます。
バーチャルオフィスは物理的なオフィススペースを持たず、簡単に住所や電話番号を利用できるのが大きな特徴です。身元を隠して書類上の会社を立ち上げやすく、詐欺やマネー・ローンダリングなどの犯罪目的で利用されるケースがありました。このような背景から、バーチャルオフィスは犯罪収益移転防止法の対象となり、審査が厳格化されています。
金融機関にとって自社の銀行口座が悪用されると、信頼が損なわれ、大きな損害を被る可能性があります。そのため、犯罪で利用されやすい特性を持つバーチャルオフィスは、特に厳格に審査が実施されているのです。そして、口座が悪用されるリスクがあると判断した場合には、口座開設を断り、悪用を未然に防止しています。
バーチャルオフィスで法人口座を開設する際の審査ポイント
バーチャルオフィスで法人口座を開設する際の審査で着目されやすいポイントは、以下の4点です。以下では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
- 事業実態の有無(ホームページ・名刺・請求書など)
- 会社の所在地と実体の整合性
- 代表者の信用情報・経歴
- 資本金と事業内容の妥当性
事業実態の有無(ホームページ・名刺・請求書など)
バーチャルオフィスは身元を隠して事業を運営しやすいという特性上、事業の実態が入念に確認されます。事業の実態とは「本当に事業を営んでいるのか」のことです。
具体的には、事業の実態を確認するために、以下のような提出書類が求められるケースがあります。
- ホームページのURL
- パンフレット
- 名刺
- 請求書
事業の実態が不明瞭な場合、口座が悪用されるリスクがあると判断され、審査が不利になる原因となります。
会社の所在地と実体の整合性
会社の所在地と実態の整合性も審査時に確認されるポイントです。整合性がないと判断されると、銀行側に不信感を与え、審査が不利になる原因となります。
たとえば、製造業や小売業など、物理的な事業所を要するビジネスでバーチャルオフィスの住所のみを公開していると、整合性は取れません。他にも、実際に仕事を行う自宅とバーチャルオフィスの住所があまりに離れているといったケースでも懸念を持たれるでしょう。
特に、法人口座は本店所在地を管轄している最寄りの支店で開設するのが一般的です。所在地と実態の整合性が取れないと、説明を求められる可能性が高いでしょう。
代表者の信用情報・経歴
バーチャルオフィスでの法人口座の開設においては、代表者の信用情報や経歴が確認されます。代表者本人の信頼性が低いと判断された場合、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。
具体的に着目される主なポイントは、以下のとおりです。
- 審査を実施する銀行やグループ会社との取引でトラブルを起こしていないか
- 反社会勢力との関与がないか
- 任意整理や個人再生、自己破産歴がないか
特に、起業直後で会社の実績がない時期については、代表者の実績が企業の実績と捉えられます。代表者の履歴書などを持参し、真摯に対応することで、信頼性を伝えられるでしょう。
なお、代表者が任意整理や個人再生といった信用トラブルを起こすと、5〜7年程度ブラックリストに載る可能性があります。別の代表者を用意したり、ブラックリストから外れるまで口座開設を見送ったりする対策が必要です。
資本金と事業内容の妥当性
資本金と事業内容の妥当性も、法人口座の開設で確認される項目です。
現在は資本金1円からでも株式会社や合同会社を設立できます。しかし、資本金が極端に少ないと、ペーパーカンパニーと疑われたり、事業を存続する資金力がないと判断されたりします。
法人口座の開設において問題のない資本金額は断言できません。「事業を行ううえで妥当な金額であるか」が重要な判断基準となります。極端な例を挙げると、事業内容が宇宙開発ベンチャーであり、資本金が5万円程度では妥当ではないと判断されるでしょう。一般的な目安としては、100万円程度の資本金を準備すべきと考えられています。自信がない場合は、中小企業診断士や税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
また、GMOあおぞらネット銀行のように、資本金が審査結果に影響しないと公言している金融機関もあります。十分な資本金を準備できない場合は、このような銀行での口座開設を検討しましょう。
加えて、銀行が事業計画書を確認した結果、妥当性がなく運営が難しいと判断した場合も、審査で不利になる恐れがあります。提示する事業内容が具体的かつ現実的かを見直したうえで、審査に臨みましょう。
審査に通りやすくするための対策
バーチャルオフィスでの口座開設の審査を通りやすくするために重要な対策は、以下の3つです。以下では、それぞれの対策を詳しく解説します。
- 信頼性の高いバーチャルオフィスを選ぶ
- 事業の実態を示す資料を準備する
- メガバンク以外も選択肢に入れる(ネット銀行)
信頼性の高いバーチャルオフィスを選ぶ
信頼性の高いバーチャルオフィスを選択することで、法人口座開設の審査に通過しやすくなります。信頼性の高さを測るために確認すべき内容は、以下のとおりです。
- 入会時に厳格な審査が実施されているか
- 過去に犯罪やトラブルが起きた住所ではないか
- 法人口座の開設実績が豊富であるか
- サービスの運営歴が長く顧客対応にも優れているか
入会時に厳格な審査が実施されていれば、犯罪目的で利用されるリスクが少なく、クリーンな住所で法人口座の審査に申し込めます。また、法人口座の開設実績が豊富であれば、金融機関からの信頼を得やすく、口座開設の相談ができるケースもあるでしょう。
一方、過去に犯罪やトラブルが起きているバーチャルオフィスや住所だと、銀行口座の悪用を懸念される恐れがあります。口座開設時以外のトラブルを避けるためにも、信頼性を重視したバーチャルオフィス選びが重要です。
事業の実態を示す資料を準備する
先述したとおり、企業の実態が不明瞭であると、銀行口座の悪用を疑われ、審査に悪影響を及ぼす原因となります。法人口座を申し込みの際には、以下のような事業の実態を示す資料を準備しましょう。
- 事業計画書
- ホームページのURL
- パンフレット
- 商品サンプル
- 取引履歴(発注書/請求書/見積書など)
事業の実態を確認できる書類の提出を義務づけている銀行もありますが、そうでない場合にも用意すべきでしょう。目に見える証拠があると、審査担当者からの信頼を得やすくなります。
また、面談時には事業内容や企業の実態を詳しく質問される可能性があります。資料とともに事業内容をわかりやすく伝えられれば好印象を与えられるため、事前準備をしておきましょう。
メガバンク以外も選択肢に入れる(ネット銀行)
バーチャルオフィスで法人口座を開設する際は、メガバンク以外も選択肢に入れることをおすすめします。メガバンクは融資の金利差などで収益を得るため、審査項目として事業の収益性や実績が求められる可能性があります。設立直後で実績がない企業の場合、バーチャルオフィスとは関係なく審査に通過する難易度は高いでしょう。
一方、ネット銀行であれば、バーチャルオフィスでの開設実績が多く、起業直後でも審査に通過しやすい傾向があります。また、すでに個人口座を開設している銀行で法人口座開設を相談するのもひとつの手です。個人で利用した実績があることから、代表者本人の信頼を得やすい可能性があります。
一方、地方銀行や信用金庫では、バーチャルオフィスでの口座開設をそもそも断っているケースが少なくありません。地方銀行や信用金庫で口座開設を希望する際には、事前にバーチャルオフィスの取り扱いを確認すると良いでしょう。
実際にバーチャルオフィスで口座開設できた事例
バーチャルオフィスでも法人口座の開設に成功している例は多数存在します。たとえば、バーチャルオフィス事業者「バーチャルオフィス1」では、メガバンクやネット銀行の法人口座を開設できた方のインタビュー記事が存在します。
傾向として、メガバンク(三井住友銀行)の法人口座を開設できた方は、個人としての取引実績があるようです。また、創業計画書や請求書、プロフィールの提出など、事業の実態や代表者の実績を伝えるための準備をしています。共通して、信頼性は審査に通過するための重要なポイントと考えられています。
ネット銀行はもちろん、大手銀行での開設事例も存在するため、バーチャルオフィスは口座開設ができないと不安になる必要はないでしょう。
バーチャルオフィスでの法人口座開設に向いている銀行はネット銀行
銀行の種類は複数存在しますが、バーチャルオフィスでの法人口座の開設に向いているのはネット銀行です。法人口座を開設できる代表的なネット銀行は、以下のとおりです。
- GMOあおぞらネット銀行
- 住信SBIネット銀行
- 楽天銀行
- PayPay銀行
ネット銀行は、大手銀行と比較してバーチャルオフィスでも法人口座を開設しやすい傾向があります。GMOあおぞらネット銀行のように、バーチャルオフィスであっても審査に影響しないと公言している銀行も存在します。
ネット銀行のメリットは、法人口座を開設しやすいことだけではありません。大手銀行などと比較して、以下のようなメリットを得られます。
- 振込手数料が安い
- 口座維持費がかからない
- 全国どこからでも開設・利用できる
- インターネットバンキングの使い勝手が良い
ネット銀行でも第三者からの信用が損なわれるとは考えにくいため、確実に法人口座を開設したい方は積極的に検討しましょう。ただし、対面でのサポートを受けられず、融資の借入限度額が低いといったデメリットもあるため、注意が必要です。
バーチャルオフィスで口座開設する際の注意点
バーチャルオフィスで口座開設する際には、以下の3点に注意しましょう。以下では、それぞれの注意点を詳しく解説します。
- 法人登記可能なバーチャルオフィスかを確認
- 違法・反社会的利用を疑われないようにする
- 初期から対面での説明を求められることもある
法人登記可能なバーチャルオフィスかを確認
バーチャルオフィスは、基本的に法人登記が可能なサービスです。しかし、事業者によっては法人登記に対応していないケースがあります。また、法人登記に対応している事業者でも、同一住所に同一名称の法人がすでに存在する場合は、法人登記が認められません。
法人口座の開設には登記簿謄本の提出が必要なので、法人登記ができないと口座開設もできません。そのため、バーチャルオフィスの契約前に以下の要素を確認しましょう。
- 法人登記に対応したバーチャルオフィスであるか
- 同一商号の企業が利用していないか
同一商号の企業は、国税庁の「法人番号公表サイト」の所在地検索を活用すれば、その住所で登記している法人の一覧を調査できます。
違法・反社会的利用を疑われないようにする
法人口座開設の審査を円滑に進めるためには、違法・反社会的利用を疑われないようにすることが大切です。違法・反社会的利用を疑われると、口座が悪用される危険性があると判断され、審査に落ちる原因となります。
具体的には、以下のような対策が重要です。
- 所在地に犯罪歴がないバーチャルオフィスを選ぶ
- 厳密な審査を実施し、適法に運営されているバーチャルオフィスを選ぶ
- 事業の実態を証明するための対策を行う(ホームページのURLの提出など)
- 資本金を適切に設定する
- 代表者の経歴やプロフィールを提供する
- 過去に反社会的な活動を行った法人と同じ商号を避ける
事業内容が健全であり信頼できる企業という印象を与えられ、スムーズに審査が進むでしょう。
初期から対面での説明を求められることもある
銀行にもよりますが、法人口座の開設時には、初期から対面での説明を求められることがあります。対面での面談は、企業の実態や信頼性、代表者の経歴・実績などを伝える重要なタイミングです。円滑に面談を進め、審査担当者からの信頼を得るためにも、以下のような事前準備を行いましょう。
- 事業内容をシンプルかつわかりやすく伝えられるようにする
- 代表者の経歴や実績を明確にする
- 事業の実態を証明する書類や代表者のプロフィールを準備する
また、面談時にはビジネスフォーマルな服装や適切な立ち振る舞いを意識することが大切です。話の内容が同じでも、服装や立ち振る舞いがしっかりしていれば、信頼性や誠実さを伝えられます。
まとめ
バーチャルオフィスでも法人口座の審査には十分に通過できます。しかし、一般的な賃貸オフィスと比べて審査が厳しい傾向があることも事実です。バーチャルオフィスで法人口座を開設するためには、審査のポイントや適切な対策、注意点を踏まえて入念に事前対策を行うことが大切です。
また、審査の難易度が高い大手銀行ではなく、比較的法人口座を開設しやすいネット銀行を選択することもおすすめします。ネット銀行であれば、法人口座の開設のしやすさだけでなく、振込手数料や口座の維持費といった面でのメリットもあります。
法人口座を適切に開設できるかどうかは、円滑にビジネスをスタートするにあたって非常に重要です。本記事を参考にして入念な事前準備を行い、スムーズに法人口座の開設を完了させましょう。
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