バーチャルオフィスは物理的なオフィスを利用できないという特性上、業種によって向き・不向きがあります。
バーチャルオフィスが向いている業種であれば、コスト削減やプライバシーの確保、柔軟な事業運営などを実現可能です。一方、バーチャルオフィスと相性が悪い業種の場合、事業の信用が損なわれたり、許認可を取得できなかったりする恐れがあります。
本記事では、バーチャルオフィスが向いている業種や向かない業種などを解説します。事業運営においてバーチャルオフィスを活用すべきかどうかが理解できるため、ぜひご覧ください。
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バーチャルオフィスを活用している代表的な業種
バーチャルオフィスを活用している代表的な業種は、以下の5つです。以下では、それぞれの特徴を詳しく解説します。
- IT・Web系
- コンサル・士業
- 通販・EC事業者
- オンラインスクール・教育系
- スタートアップ・副業系
【IT・Web系】フリーランスエンジニア/Webデザイナー/制作会社など
以下のようなIT・Web系の業種では、バーチャルオフィスが多く活用されています。
- フリーランスエンジニア
- Webデザイナー
- 制作会社
IT・Web系の業種は、パソコンや通信環境を整備すれば自宅の一室でも業務を進められるケースがほとんどです。制作会社でもテレワークを導入すれば、物理的なオフィスがなくてもチームでスムーズに業務を行えます。対面での顧客対応もほとんど発生しないため、バーチャルオフィスでも円滑に事業を展開できるでしょう。
バーチャルオフィスの活用によって、リモートワークでコストを削減しつつ、取引先には高い専門性を印象付けられます。
【コンサル・士業】経営コンサルタント/弁理士/公認会計士など
コンサルタント系の業種や弁理士・公認会計士を含む一部の士業では、バーチャルオフィスが活用されます。
これらの業種は、顧客への訪問型やオンライン面談型を採用すれば、物理的なオフィスがなくても問題なく事業を運営できます。しかし、対外的な信用が集客のポイントとなるため、自宅住所を事業所として公開するのには不安があるでしょう。
そこで、バーチャルオフィスを活用すれば、東京都千代田区といった信頼性やブランド力が高い住所を安価に利用できます。また、顧客との打ち合わせ場所として、バーチャルオフィスの貸会議室を使用する方も多く見られます。
ただし、税理士や弁護士といった一部の士業は、バーチャルオフィスでは許認可を取得できません。公認会計士と税理士の両方の資格で開業予定の方などは、事前に許認可の要件を確認しましょう。
【通販・EC事業者】実店舗なしで展開するネット販売業
バーチャルオフィスは、実店舗なしで業務を展開する通販・EC事業者にも多く利用されています。
インターネットショッピングを運営する場合、特定商取引法の定めにより、事業者の氏名や住所などの公開が義務づけられています。その際に個人情報である自宅住所を公開すると、プライバシーのリスクが生じる恐れがあるため要注意です。
バーチャルオフィスの活用によって、ECサイトに公開する住所を確保でき、プライバシーを守りつつ安心して事業を運営できます。また、ユーザー視点で考えても、販売者の住所が自宅よりも一等地ビルの住所のほうが安心して商品を購入できるはずです。
ただし、中古品を販売する「古物商」を運営する場合、バーチャルオフィス単体では許認可を取得できない恐れがあります。
【オンラインスクール・教育系】講師業・カウンセラーなど
オンラインスクールなどの講師業やカウンセラーもバーチャルオフィスを活用しています。
指導やカウンセリングをオンラインで実施する場合、物理的な教室やカウンセリングルームは不要です。自宅の一室でも事業を運営できるため、バーチャルオフィスで事業用の住所をレンタルするのは非常に有力です。
また、対面でのカウンセリングを希望された場合は、バーチャルオフィスの会議室やカウンセリングルームを利用できます。わざわざ会議室を見つける手間が省け、会員料金でお得に利用できるケースも多くあります。
【スタートアップ・副業系】起業初期や個人事業主が多く活用
起業初期の企業や副業ワーカーを含む個人事業主にも、バーチャルオフィスが広く活用されています。
バーチャルオフィスを活用すれば、オフィスコストを大幅に削減できます。資金繰りが課題となりやすい起業初期や、規模が小さい副業でも効率的に事業を展開することが可能です。
さらに、バーチャルオフィスは解約がしやすく、柔軟にオフィス環境を変更できる点も魅力です。レンタルオフィスやシェアオフィスを提供している事業者であれば、所在地を変えずにオフィスをスムーズに移転できます。
事業規模を急激に拡大していくスタートアップでも、常に最適なオフィス環境を整えられるでしょう。
バーチャルオフィスに向いている業種の特徴
バーチャルオフィスの活用が向いている業種の特徴として、主に以下の4つが挙げられます。以下では、それぞれの特徴を詳しく解説します。
- 顧客対応を対面で行わない
- 主にオンラインで完結する業務形態
- 初期費用を抑えて起業したいビジネスモデル
- 固定電話・事務所への来訪が少ない業種
顧客対応を対面で行わない
IT系やWeb関係など、対面での顧客対応を伴わない業種は、バーチャルオフィスの活用が向いている傾向があります。
メールやチャット、ビデオ通話で顧客とのやり取りが完結すれば、顧客を物理的な事業所に招く必要はありません。事業を自宅の一室などで完結でき、バーチャルオフィスでも円滑に運営できる可能性があります。また、そもそも顧客対応が不要な業種も同様に、物理的なオフィス空間が不要な可能性が高いでしょう。
加えて、顧客対応があっても頻度が低ければ、バーチャルオフィスで十分な可能性があります。貸会議室を利用できるバーチャルオフィスであれば、その都度予約が取れます。物理的なオフィスを契約するよりも、コストパフォーマンスよく対面業務を行えるはずです。
主にオンラインで完結する業務形態
ECサイトの運営やオンラインレッスンの講師など、主にオンラインで完結する業種は、バーチャルオフィスの活用が向いています。
オンラインで完結する業種であれば、自宅の一室で事業を運営できます。また、チームで業務を行う場合でも、テレワークを導入すれば物理的なオフィスの契約は不要です。
バーチャルオフィスを契約することで、自宅で働きながらも対外的には信頼性の高い一等地の住所を公開できます。プライバシーを守りつつ、顧客からの信頼も得られるでしょう。
初期費用を抑えて起業したいビジネスモデル
リスクを抑えて起業したい方や、資金繰りが課題になりやすいスタートアップなどは、バーチャルオフィスの活用が適しています。
バーチャルオフィスを活用すれば、数千円程度の初期費用と数百円から数千円程度の月額料金でオフィス環境を確保することが可能です。一方、一般的な賃貸オフィスを契約する場合、数百万円単位の初期費用や、月数万円から数十万円の固定費がかかる可能性があります。バーチャルオフィスの活用により、大幅なコスト削減を実現できるでしょう。
初期費用を削減できれば、資金面でのリスク低下や事業の安定化、サービス改善への投資などが可能となります。
固定電話・事務所への来訪が少ない業種
固定電話への受電や事務所への来訪が少ない業種は、バーチャルオフィスと相性が良いといえます。
バーチャルオフィスは、事業の所在地に代表者が常駐しているわけではないため、急な来客対応が困難です。また、固定電話への受電が多く、バーチャルオフィスの電話サービスを用いると、対応がワンテンポ遅れる恐れがあります。そのため、バーチャルオフィスは固定電話や事務所への来訪が少ない業種こそ、最大のメリットを得られるでしょう。
事務所への来訪が想定される業種の場合は、以下のような受付サービスが提供されているバーチャルオフィスが適しています。
- スタッフによる取次サービス
- 代表者と直接連絡が取れるシステム
また、事前にバーチャルオフィスである旨を伝える、携帯番号を共有するなどの対策で、固定電話や来訪を減らすこともおすすめです。
バーチャルオフィスに不向きな業種とその理由
以下のような業種は、バーチャルオフィスの活用が向いていません。以下では、それぞれの理由を解説します。
- 対面営業・来訪対応が前提の業種
- 許認可に実体オフィスが求められる業種
- 信用性が強く求められる業種
対面営業・来訪対応が前提の業種
不動産の仲介や美容室といった対面営業・対面対応が前提の業種には、バーチャルオフィスは向いていません。バーチャルオフィスは物理的なオフィス空間を持たないため、そもそも開業が難しい可能性があります。
貸会議室を提供しているバーチャルオフィスは多いですが、予約やコストの観点から、毎日常に利用するのは現実的ではありません。対面営業や来訪対応が前提の場合は、一般的な賃貸オフィスを契約すべきでしょう。
許認可に実体オフィスが求められる業種
許認可を取得する要件として実体のあるオフィスが求められる業種は、バーチャルオフィスの活用が向いていません。代表的な職種は、以下のとおりです。
- 古物商
- 建設業
- 一部の士業(税理士/弁護士など)
- 人材派遣業
- 有料職業紹介事業
- 探偵業
これらの業種で必要な許認可を取得するには、物理的なオフィス空間が求められます。バーチャルオフィスでは許認可を取得できないケースがほとんどで、開業は困難です。開業にあたり許認可の取得が必要な場合は、バーチャルオフィスでも取得できるかどうかを確認しましょう。
また、コストを抑えて許認可を取得したい方は、物理的なオフィス空間をレンタルできる「レンタルオフィス」の活用がおすすめです。
信用性が強く求められる業種
金融業や士業など、信用が強く求められる業種は、バーチャルオフィスの活用が向かない可能性があります。
事業の実態を判断しづらいバーチャルオフィスは、一般的な賃貸オフィスと比較して信用力が課題となります。顧客や取引先がバーチャルオフィスの仕組みを理解していない場合、不信感を与える恐れがあるでしょう。また、銀行口座の開設や融資の審査など、公的機関での審査も不利になる可能性があります。
とはいえ、バーチャルオフィスの認知度は拡大傾向にあり、合理的な事業プランで真摯に取り組めば、対外的な信用は十分に得られます。そのため、「バーチャルオフィスでは信用が得られない」と過度に不安になる必要はないでしょう。
業種にかかわらず注意すべきポイント
業種にかかわらず、バーチャルオフィスの活用を検討する際は、以下の点に注意しましょう。以下では、それぞれの注意点を詳しく解説します。
- 法人登記の可否・銀行口座開設のハードル
- バーチャルオフィスの住所の信頼性
- 取引先や金融機関からの見え方
法人登記の可否・銀行口座開設のハードル
バーチャルオフィスの活用を検討する際は、法人登記が認められているかどうかを確認しましょう。バーチャルオフィスでも法人登記は可能ですが、事業者によっては認めていない、または上位プランへの加入が必要な場合があります。法人登記が目的にもかかわらず、法人登記が認められていなければ本末転倒なので、確認は必須です。
また、バーチャルオフィスを活用することで、銀行口座開設の難易度が上がる可能性があります。バーチャルオフィスは事業の実態が見えにくい特性があり、口座の悪用を防止したい銀行は厳しく審査を実施する傾向があります。地方銀行や信用金庫のなかには、バーチャルオフィスでの口座開設を認めていないケースがあるため、注意が必要です。
とはいえ、バーチャルオフィスでも大手銀行やネット銀行の法人口座の開設事例は数多く存在します。なかには、バーチャルオフィスが原因で審査に落とすことはないと明言している銀行もあるため、過度な心配は不要です。
バーチャルオフィスの住所の信頼性
バーチャルオフィスの住所によって対外的な信頼性が異なります。
たとえば、東京23区内と23区外を比べると、23区内の住所のほうが取引先や顧客からの印象に優れているでしょう。そのなかでも、千代田区や中央区、港区、渋谷区など、多くの企業が集まるエリアの信頼性は非常に高いといえます。対外的に信頼される住所であれば、顧客や取引先は安心して企業と取引ができるでしょう。
一方、バーチャルオフィスの住所で過去に犯罪やトラブルが起きている場合、信頼できない企業という印象を与えかねません。評判や使用実績を確認したり、「住所地+詐欺」などのキーワードで検索したりして、住所の信頼性を確認しましょう。
取引先や金融機関からの見え方
バーチャルオフィスは物理的なオフィススペースを持たないため、取引先や金融機関から事業の実態を疑われやすい傾向があります。ペーパーカンパニーと判断されてしまうと、取引先からの信用が損なわれ、口座開設や融資の審査にも通過できない原因となります。また、金融機関から審査を受ける際には、事業の実態を証明する追加資料の提出が求められることがほとんどです。
バーチャルオフィスを活用する場合、いかに事業の実態を示すかが重要です。具体的には、以下のような対策が挙げられます。
- 企業のホームページを開設する
- 会社案内・パンフレットを作成する
- SNSアカウントを運用する
- 取引実績を作る
事業の実態を明確にできれば、ペーパーカンパニーの疑いを持たれず、安心して取引してもらえるでしょう。
バーチャルオフィスを選ぶ際のチェックポイント
バーチャルオフィスを選ぶ際には、以下の3つのポイントをチェックしましょう。ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
- 業種との相性を考えた立地
- 提供サービスの内容
- 過去の審査実績を確認
業種との相性を考えた立地
業種との相性が良い立地にあるバーチャルオフィスを選ぶことが大切です。以下のように、地域によってはビジネスのイメージが確立されているケースがあります。
- 東京都千代田区:士業など厳格なイメージの業種
- 東京都渋谷区:IT系・Web関連の事業
- 東京都港区:グローバルな事業
たとえば、IT系の事業を立ち上げる際に渋谷区のバーチャルオフィスを選択すれば、一種のブランディング効果が期待できます。高い専門性を対外的に示せるため、バーチャルオフィス選びの判断材料のひとつとしましょう。
提供サービスの内容
各バーチャルオフィス事業者によって、提供しているサービスが異なります。代表的なサービス内容は、以下のとおりです。
- 住所利用
- 法人登記
- 郵便物の受け取り・転送
- 電話転送・電話秘書サービス
- 貸会議室の提供
- 受付サービス
- 各種士業の紹介
まずは、バーチャルオフィスに求めるサービスは何かを明確にしましょう。たとえば、対面での打ち合わせが想定される業種であれば、貸会議室を提供しているバーチャルオフィスを選ぶなどが考えられます。
また、各種サービスが基本料金内で利用できるのか、オプション料金であるのかも確認しましょう。オプションでの取り扱いの場合、想像以上に料金が高額になる可能性があるため、綿密にシミュレーションを行うことが大切です。
過去の審査実績を確認
口座開設や融資の審査実績が豊富なバーチャルオフィスを選ぶことをおすすめします。
バーチャルオフィスによって、銀行口座の開設や融資による資金調達の審査の難易度が変わるケースがあります。審査実績が豊富なバーチャルオフィスであれば、金融機関からの信頼を得やすく、スムーズに口座開設や資金調達を進められるでしょう。
また、実績が豊富なバーチャルオフィスであれば、適切な審査や運営が実施されている裏付けとなります。不要なトラブルを回避でき、安心して利用できるでしょう。
一方、審査実績がないバーチャルオフィスでは、金融機関からの信用を得られず、何から問題を有している可能性もあります。
まとめ
バーチャルオフィスは、物理的なオフィススペースを持たないことから、業種によって向き・不向きが存在します。特に、対面での顧客対応や急な来客がなく、オンライン上で業務を完結できる業種には最適といえます。バーチャルオフィスの特徴を適切に理解して、「自社の事業ではバーチャルオフィスを使うべきか」を適切に判断しましょう。
バーチャルオフィスを有効活用すれば、コストカットや事業運営の効率化、プライバシーのリスクの防止などが期待できます。ビジネスの成功率の向上に寄与するため、ぜひご検討ください。
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