起業で成功を目指す際は、開業前に必要資金の目安を把握することが重要です。魅力的な事業計画を作成しても、資金が不足していれば開業はできません。また、資金が足りない状態で無理して開業すると、起業直後の赤字期間に耐え切れず、早期に廃業してしまう恐れがあります。
日本政策金融公庫の2024年の調査によれば、開業費用の平均値は985万円、中央値は580万円です。しかし、起業時に必要な費用は、個々の事業内容や事業戦略によって大きく異なります。そのため、自身の事業で発生する費用を明確にしましょう。
本記事では、起業費用の内訳や目安、費用を抑える方法などを解説します。
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起業に必要な主な費用とは?
起業に必要な費用は、大きく以下の2つに分類できます。
- 初期費用:法人設立費用/オフィス取得費/備品・設備の購入費など
- 運転資金:人件費/オフィス賃料/光熱費/広告宣伝費/消耗品費/仕入れ費用など
初期費用とは、開業に必要なオフィスや設備などを用意するための費用であり、起業時に一度だけ発生します。一方で運転資金とは、人件費やオフィスの賃料など、実際に事業を運営する際に必要な費用です。初期費用とは異なり、事業を展開するうえで毎月継続的に発生します。
初期費用と運転資金は特性が異なるため、起業資金を準備する際は別々に考えることが重要です。それぞれの費用を分けて考えることで、正確に必要な費用を算出でき、毎月のキャッシュフローもイメージしやすくなります。
初期費用の内訳と目安金額
起業時に発生する初期費用の代表的な内訳は、以下の4つです。ここでは、各内訳の詳細や費用の目安を解説します。
- 法人設立にかかる費用
- オフィス・店舗の契約費用
- 備品・設備の購入費用
- 広告・プロモーション費用
法人設立にかかる費用
法人を設立する場合、設立手続きに関する公的費用が発生します。費用の内訳や金額は、設立する法人形態によって異なります。代表的な法人形態と費用の内訳は、以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | 一般社団法人 | 一般財団法人 | NPO法人 | |
資本金等 | 1円~ | 1円~ | 不要 | 300万円~ ※基本財産 | 不要 |
定款に貼付する収入印紙代 | 40,000円 ※電子定款の場合は不要 | 40,000円 ※電子定款の場合は不要 | 不要 | 不要 | 不要 |
定款認証手数料 | 15,000~50,000円 ※資本金額等によって異なる | 不要 | 50,000円 | 50,000円 | 不要 |
謄本手数料 | 約2,000円 | 不要 | 約2,000円 | 約2,000円 | 不要 |
登録免許税 | 150,000円または資本金の0.7%の高い金額 | 60,000円または資本金の0.7%の高い金額 | 60,000円 | 60,000円 | 不要 |
合計 | 約207,000~242,000円+資本金 | 約100,000円+資本金 | 約112,000円 | 約112,000円+基本財産 | 0円~ |
また、法人登記を司法書士などの専門家に依頼する場合、5〜20万円程度の報酬の支払いが必要です。
オフィス・店舗の契約費用
オフィスや店舗を構えて起業する場合、初期費用として事業所の取得費が発生します。一般的な賃貸オフィスを契約する場合、費用の目安は以下のとおりです。
費用内訳 | 初期費用の目安 |
保証金/敷金 | 賃料の1~12ヶ月分 |
礼金 | 賃料の1~2ヶ月分 |
前家賃 | 賃料の1~1.5ヶ月分 |
前共益費 | 共益費の1~1.5ヶ月分 |
仲介手数料 | 賃料の1ヶ月分 |
保証会社利用料 | 賃料の0.5~1ヶ月分 |
火災保険料 | 1.5~15万円 |
内装工事・設備導入費 | 30~60万円/1坪(スケルトン物件の場合) |
賃料の目安はエリアや物件の広さ、設備などによって異なります。たとえば、東京都渋谷区で10坪程度の小規模オフィスを賃貸する場合、25〜30万円程度の賃料となるのが一般的です。
また、内装工事・設備導入費は、オフィスの状態(スケルトン/居抜き)や導入する設備などによって変動します。
備品・設備の購入費用
起業時の初期費用として、以下のような備品や設備の購入費が発生します。
費用内訳 | 初期費用の目安 |
パソコン | 5~15万円程度/1台 |
オフィスデスク | 3~5万円程度/1台 |
オフィスチェア | 3万円程度/1脚 |
デスクワゴン | 3万円程度/1台 |
キャビネット | 3~5万円程度/1台 |
電話設備 | 4万円程度 |
インターネット回線工事 | 2~4万円程度 |
プリンター | 1~2万円程度 |
名刺 | 1,000円程度/100枚 |
その他の消耗品 | (文房具/プリンター用紙など) |
必要な備品や設備は、事業内容によって大きく異なります。たとえば、IT関連の事業を営む場合、高スペックなパソコンや人数分の机・椅子などが必要です。他方、飲食店の場合は専門の厨房機器や、レジ、飲食用の机・椅子などが必要となります。
まずは事業で必要な備品や設備を漏れなくリスト化しましょう。
広告・プロモーション費用
広告・プロモーション費用は、宣伝の方法や規模などによって異なります。代表的な広告宣伝の手法と初期費用の目安は、以下のとおりです。
費用内訳 | 初期費用の目安 |
ホームページ制作 | ドメイン・サーバー費用:3,000~5,000円程度 制作外注費用:20~40万円程度 |
SNS運用 | 無料(自社で運用する場合) |
チラシの配布 | 印刷費用:3,000~10,000円程度/1,000枚 デザイン料:30,000~50,000円程度 |
Web広告の配信 | 3~10万円程度(広告代理店に依頼する場合) |
ただし、広告宣伝のコストは、初期費用に加えてランニングコストを加味することが大切です。上記の例でいえば、Web広告の配信費用やホームページ運営のドメイン・サーバー料金は継続的に発生します。加えて、ホームページ制作やSNS運用では、運用にかかる人的コストを考慮する必要があります。
広告・プロモーション費用を計算する際は、費用対効果を意識することが重要です。広告宣伝の手法はさまざまなので、事業のターゲット層や予算に合わせて最適な方法を選択しましょう。
運転資金として見込んでおくべき費用
起業後の運転資金として見込んでおくべき費用として、以下のようなものが挙げられます。
- 家賃
- 人件費
- 通信費
- 光熱費
- 仕入れ費用
- 顧問税理士・弁護士などへの報酬
また、個人で起業する場合は当面の生活費を確保し、利益が出ない間にも生活を続けられる余裕を残すことが大切です。
一般的に、運転資金は3〜6ヶ月分程度用意すべきと考えられています。しかし、必要な運転資金は事業内容によって大きく異なります。たとえば、利益が出るまでに時間がかかる場合や、売掛金の回収に時間がかかる場合などは、余裕を持って運転資金を準備すべきです。一方、即金性が高く、早いうちから黒字化を見込める事業では、ある程度少額の運転資金でも問題ないケースがあります。
月々の運転資金はどのくらいかかるか、黒字化・売掛金の回収まで何ヶ月かかるかを綿密に計算しましょう。
【業種別に見る】起業にかかる費用の違い
起業時に必要な費用は、業種やビジネスモデルによって大きく異なります。ここでは、以下の4つの業種について、起業にかかる費用の特徴を解説します。
- 飲食業
- 小売業
- IT系事業
- コンサルティング業
飲食業
飲食業で起業する際は、以下のような初期費用が発生します。
- 店舗取得費
- 内装工事費
- 店舗設備費
- 机・椅子などの備品の購入費
特に、キッチン設備を新規で導入する場合、費用は高額になる傾向があります。さらに、食材の仕入れ費用や従業員の人件費といった運転資金も必要です。このような特性から、飲食業は比較的費用がかかりやすいビジネスといえます。
初期費用を抑えるためには、厨房設備や什器などが整っている居抜き物件を探すなどが考えられます。
小売業
小売業は店舗型のビジネスであるため、店舗取得費を含む以下のような費用が発生します。
- 店舗取得費
- 内装工事費
- 陳列棚などの購入費
- 仕入れ費用
また、人件費や仕入れ費用などの運転資金も必要です。店舗が不要なビジネスと比較して多くの費用を要する傾向があります。費用を抑えて起業したい方は、居抜き物件を活用するなどの工夫が求められます。
IT系事業
Webデザインやアプリ開発といったIT系のビジネスは、顧客を招く店舗が不要である点が特徴です。飲食業や小売業のように大規模な事業所は不要であり、内装工事も必要最小限に留められるケースが一般的です。さらに、一人または少人数で起業する場合、オフィスを借りず、自宅で事業を展開できるケースがあります。
パソコンやオフィスデスク、オフィスチェアといった設備があれば開業できるため、費用を抑えて起業したい方にも向いています。
コンサルティング業
事業の運営方針にもよりますが、コンサルティング業は顧客を事務所に招かずに運営することが十分に可能です。来訪型やオンライン相談型のビジネスモデルを採用すれば、小規模な事務所や自宅でも起業でき、初期費用を大幅に抑えられます。
さらに、一人または少人数でも運営しやすく、仕入れや家賃などの費用もかかりにくいため、運転資金も最小限に抑えられます。初期費用と運転資金の両方を抑えやすいビジネスであるため、低コストで起業したい方にも最適です。
起業費用を抑えるための工夫
起業の成功率を上げるには、初期費用や運転資金をいかに抑えるかが重要です。費用を抑えて起業すれば、資金繰りの安定化や万が一失敗した際のリスクヘッジにつながります。
ここでは、起業費用を抑えるための工夫を3つ解説します。
- レンタルオフィス・バーチャルオフィスを活用
- 中古の備品やサブスクリプションサービスの利用
- 助成金・補助金制度の活用
レンタルオフィス・バーチャルオフィスを活用
起業費用のなかでも、非常に大きな割合を占めるのがオフィス費用です。事業規模や立地によっては、オフィスの取得費で1,000万円を超えるケースがあります。そこで、レンタルオフィスやバーチャルオフィスの活用によって、オフィスコストを大幅に削減可能です。
オフィス形態 | 主な特徴 |
レンタルオフィス | ・物理的なオフィス空間をレンタルできる ・デスクやチェア、通信環境などが最初から整っている |
バーチャルオフィス | ・事業用の住所をレンタルできる ・物理的なオフィス空間は利用できない |
レンタルオフィスであれば、通常数万円の入会金で利用を開始でき、事業運営に必要な備品も最初から整備されています。さらに、内装工事費や光熱費もかからないため、初期費用を抑えて起業したい方に適しています。来客が伴うビジネスでも、貸会議室が提供されているレンタルオフィスであれば、問題なく対応可能です。
また、自宅で事業を展開できる場合は、バーチャルオフィスの活用がおすすめです。バーチャルオフィスであれば、数千円の初期費用と月額数百円から数千円のコストで事業所を確保できます。自宅で働きつつ、対外的には信用力のあるオフィスビルの住所を低コストで公開できるため、効率的に事業運営を進められるでしょう。
▼バーチャルオフィスの概要や選ばれる理由について詳しくはこちら
中古の備品やサブスクリプションサービスの利用
中古の備品やサブスクリプションサービス・リースサービスの活用により、起業の初期費用を大幅に抑えられます。
当然ですが、備品や設備は新品よりも中古のほうが低価格で調達できます。性能に問題がないのであれば、新しい設備にこだわらなくても良いでしょう。ただし、補償がなく、耐用年数も読みにくいといった点は考慮する必要があります。
また、サブスクリプションやリースを活用すれば高額な備品や設備を購入する必要がなく、初期費用を抑えて開業が可能です。具体的には、複合機やオフィス家具、産業用設備、車両などの備品・機材を月額料金制で利用できます。月々の固定費にはなりますが、一度に支払うべき資金が少なくなる分、起業のリスクを抑えやすくなるでしょう。
助成金・補助金制度の活用
国や自治体が定める一定の要件を満たす場合、助成金や補助金制度を活用できるケースがあります。助成金や補助金は返済が不要な資金であるため、起業資金・運転資金に余裕が生まれる要因となります。
ただし、助成金や補助金には要件や審査があり、すべての事業者が利用できるわけではありません。また、後払いとなるため、一度は費用を立て替えるだけの資金力が求められます。
起業時に活用できる助成金・補助金の情報については、各自治体や中小企業庁、厚生労働省などのホームページで確認できます。
資金不足を防ぐために準備しておきたいこと
起業時の資金不足を防ぐためにも、以下の3つの点を事前に確認しましょう。以下では、それぞれの要素について詳しく解説します。
- 事業で必要な自己資金の目安
- 外部資金調達の選択肢
- 資金繰り表の作成とキャッシュフロー管理の重要性
起業で必要な自己資金の目安
起業で必要な費用のうち、3〜5割程度は自己資金で用意することをおすすめします。
融資により資金調達する場合、自己資金の要件が定められていることが一般的です。自己資金割合があまりに低いと、審査に通過できない恐れがあります。
また、自己資金割合が低い場合、外部から調達する金額が増え、返済の負担が重くなります。利息を含めて長期にわたって返済しなければならず、資金繰りが圧迫される恐れがあるため注意が必要です。
一方、自己資金割合が高いほど月々の返済額は減り、利息の負担も少なくなります。結果的に資金繰りに余裕が生まれ、安全性の向上や事業の拡大を目指せるでしょう。万が一事業に失敗しても、負債として残る金額が抑えられるため、自己資金割合を高める意識が重要となります。
外部資金調達の選択肢
起業時に多額の初期資金を要する際には、外部からの資金調達を検討しましょう。一言で資金調達といっても、方法は以下のように多岐にわたります。
代表的な資金調達手段 | 主な特徴 |
融資 | 日本政策金融公庫などの金融機関から返済を前提とした資金提供を受ける方法 |
出資 | ・投資会社や個人から資金調達を受ける代わりに株式を発行する方法 ・返済は不要であるが、事業の成長に伴って分配金を支払うケースがある |
クラウドファンディング | ・インターネットを介して不特定多数の方から資金を調達する方法 ・金銭での返済ではなく返礼を行う形式が一般的(寄付型・融資型も存在する) |
補助金・助成金 | ・一定の要件を満たしていれば返済不要の資金提供を受けられる方法 ・後払いであるため立替払いが必要 |
他にも、ビジネスコンテストの賞金や両親・親族からの借入といった方法があります。それぞれ特徴が異なるため、事業の特性やビジョンに合わせて選択しましょう。
資金繰り表の作成とキャッシュフロー管理の重要性
事業運営における資金不足を防ぐためには、資金繰り表を作成し、綿密なキャッシュフロー管理を行うことが重要です。
資金繰り表とは、事業運営における現金や預金の収支をまとめた集計表のことです。売掛金や買掛金を用いて取引する場合、売上・仕入れのタイミングと、実際の入金・出金の時期にズレが生じます。現金の流れを適切に把握していないと、帳簿上で利益が出ていても資金がショートしてしまう「黒字倒産」のリスクが発生します。
現金の動きを踏まえて綿密にキャッシュフローを管理することで、資金不足のリスクを抑えられ、事業の安定化を図れるでしょう。
まとめ
起業時には、オフィスコストや備品の購入費、人件費といったさまざまな費用が発生します。資金が不足していると、円滑に事業を開始できなかったり、早期に資金がショートしてしまったりするリスクが生じます。そのため、まずは「どのくらいの初期費用・運転資金がかかるのか」を明確にしましょう。
また、レンタルオフィス・バーチャルオフィスやサブスクリプションサービスなどを活用し、コストを削減する対策も重要です。費用を抑えて開業できれば、資金繰りに余裕が生まれ、万が一の失敗時のリスクにも備えられます。
起業の成功において、資金面の管理は必要不可欠です。起業準備の段階でしっかりと事業計画を作成し、綿密な資金計画の下で開業を目指しましょう。
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