副業の事業規模が拡大してきたタイミングでは、個人事業主としての開業を検討しましょう。副業を個人事業主として取り組むことで、節税効果や信用力の向上といったメリットが期待できます。
しかし、開業届の提出が必要となり、事業規模が大きくなると確定申告の手間や副業分の税負担などが発生します。メリットや注意点を考慮したうえで、副業を個人事業主として取り組むべきかどうかを判断しましょう。
本記事では、副業から個人事業主になる方法やメリット・注意点、成功のポイントなどを解説します。
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副業から個人事業主になるとは?基礎知識を整理
会社員として働きながら、副業で個人事業主になることが可能です。会社員として副業をしているという事実は同じですが、税務上の区分が個人事業主であるか否かに違いが生まれます。
ここでは、副業と個人事業主の違いや、個人事業主として開業すべきタイミングを解説します。
副業と個人事業主の違い
副業とは、本業以外の仕事で収入を得る行為を指します。具体的には、勤め先の就業時間外に事業を営んだり、アルバイトをしたりすることです。
一方で個人事業主とは、継続・反復して事業を営む個人のことです。税法上の区分のひとつとして、管轄の税務署に開業届を提出した方が個人事業主として扱われます。
個人事業主になるには、通常「事業所得」を得るビジネスを開始する必要があります。より簡単にいえば、活動内容が客観的に事業として認められなければなりません。たとえば、単発で得られる原稿料や講演料などは雑所得に分類され、これだけでは個人事業主になるのは認められません。
このように、副業は働き方のひとつであり、個人事業主は税法上の区分です。そのため、副業として個人事業主になることが可能です。
なお、開業届を提出したからといって、無条件で所得が事業所得になるわけではありません。また、副業で事業所得を得ている場合でも、開業届の提出は義務ではない点に留意しましょう。
どのタイミングで個人事業主として開業すべきか
以下の3つをすべて満たす場合、個人事業主としての開業を検討しましょう。
- 年間の副業所得が20万円を超える場合
- 副業の収益が年単位で継続する場合
- 業務内容が事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかに該当する場合
副業所得が年間20万円を超えると、税務署への確定申告が必要となります。その際に、個人事業主として開業すれば、「青色申告」という制度を活用でき、税負担を大幅に抑えられます。
特に、副業所得が年単位で発生し続ける場合には、個人事業主としての開業がおすすめです。税務署に「青色申告承認申請書」を提出して承認を受ければ、翌年以降も原則として毎年青色申告を続けられます。継続的に青色申告の特典を受けられるため、長期的に節税メリットが蓄積されていきます。
ただし、青色申告を活用するには、所得の内容が事業所得、不動産所得または山林所得のいずれかでなければなりません。反復性や継続性、独立性が認められない場合は、多くの場合「雑所得」と判断され、青色申告による節税ができないため要注意です。
開業届の提出方法と必要書類
副業として個人事業主になるには、管轄の税務署に開業届を提出する必要があります。以下では、開業届の概要や提出方法、青色申告承認申請書をあわせて提出すべき理由を解説します。
開業届とは
開業届とは、個人事業主として開業する際に管轄の税務署に提出する必要がある届出書です。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
書類名 | 個人事業の開業・廃業等届出書 |
対象者 | 新たに事業所得、不動産所得または山林所得が発生する事業等を開始した方 |
提出先 | 納税地(原則として住所地)を管轄する税務署 |
提出期限 | 開業日から1ヶ月以内 |
ただし、提出しなかった際の罰則規定は定められていません。そのため、事業を開始しても提出は必須ではなく、開業日から1ヵ月を過ぎた後に提出しても受け付けてもらえます。
なお、開業日の決め方には明確な規定がなく、「初めて収益が発生した日」や「事業の準備を開始した日」など任意で設定できます。
税務署への提出方法
開業届の税務署への提出方法には、大きく以下の3つがあります。
- e-Taxで電子申請
- 書面で税務署窓口に提出
- 書面で税務署に郵送
e-Taxとは、国税関連の申請や確定申告をインターネット上で完結できるオンラインサービスです。e-Taxで電子申請を行うには、電子証明書を付与したマイナンバーカードやパソコン、通信環境などが必要となります。事前準備には手間がかかりますが、自宅にいながら時間を問わずに開業届を提出できる点がメリットです。また、青色申告で65万円の特別控除を受ける要件には、e-Taxでの確定申告があるため、あらかじめ環境を整えておくことを推奨します。
一方、マイナンバーカードや電子証明書の取得が手間と感じる方は、書面での提出も有力です。特に、税務署窓口に足を運べば、その場で様式を受け取ることができ、内容に不備がないかも確認してもらえます。ただし、窓口に足を運ぶ場合は、税務署の開庁時間に合わせる必要があり、副業の方には現実的でない可能性があるでしょう。
なお、会計ソフトを利用すれば、必要事項の入力だけで開業届を作成でき、電子申請も簡単になります。その後の帳簿作成や確定申告もスムーズになるため、検討してみましょう。
青色申告承認申請書もあわせて提出すべき理由
開業届を提出する際は、あわせて「青色申告承認申請書」の提出を推奨します。青色申告承認申請書とは、個人事業主が青色申告の承認を受ける場合に提出が必要な書類です。
書類名 | 青色申告承認申請書 |
対象者 | 青色申告の承認を受けようとする事業者 |
提出先 | 納税地(原則として住所地)を管轄する税務署 |
提出期限 | 開業日が1月16日以降:開業日から2ヶ月以内 開業日が1月16日以前:その年の3月15日まで |
青色申告とは、一定の方法で帳簿を作成することを条件に、以下のような特典を受けられる制度です。
- 最大65万円の特別控除を所得から差し引ける
- 配偶者等に支払う給与を必要経費に算入できる
- 赤字を前年や翌年の所得金額から差し引ける
税負担を大幅に抑えられ、手元に残る金額が増えるため、積極的に活用しましょう。なお、開業届を提出せずに、青色申告承認申請書のみを提出することはできません。
副業を個人事業主として申告するメリット
副業で得た所得を個人事業主として申告する主なメリットは、以下の4つです。以下では、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
- 経費計上で課税所得が減る
- 青色申告特別控除(最大65万円)が活用できる
- 家事按分や減価償却の適用で節税幅が広がる
- 信用や取引先からの評価向上が期待できる
経費計上で課税所得が減る
副業所得を得る際は、収入を得るために使った費用を経費として計上できます。税金の計算の基準となる課税所得は収入金額から経費や所得控除を差し引いて求めるため、経費を適切に計上することで節税効果を得られます。
経費の具体例は、以下のとおりです。
- ホームページを維持するサーバー・ドメイン料金
- インターネットショッピングを運営する際の仕入れ代金
- 事務仕事で使う筆記用具の購入費
適切に経費を計上して課税所得を減らせば、所得税の負担を抑えられ、事業の安定化につながります。所得税の課税所得が減れば、翌年の住民税や社会保険料の負担も軽減されるため、大きなメリットでしょう。
なお、個人事業主として開業していなくても、業務に直接必要な支出であり、領収書や記録をしっかりと残していれば経費計上が可能です。
青色申告特別控除(最大65万円)が活用できる
副業を個人事業主として行う大きなメリットは、青色申告を活用できる点です。青色申告の特典のひとつには、最大65万円を所得金額から差し引ける「青色申告特別控除」があります。
副業所得から最大65万円の特別控除を差し引くことで、課税所得を大幅に減らせます。具体的に軽減される税額は個々の所得によって異なりますが、所得税率が10%の場合の節税効果は、最大6.5万円です。
さらに、青色申告特別控除は所得税のほか、翌年の住民税や社会保険料の計算にも反映されます。つまり、先述した6.5万円よりも大幅な節税効果を期待することが可能です。
なお、青色申告特別控除の金額は、要件に応じて以下の3段階に分けられます。
- 10万円
- 55万円
- 65万円
最大となる65万円の控除を受けるには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 正規の簿記の原則(主に複式簿記)での記帳
- 電子申告または電子帳簿保存
- 期限内の確定申告
- 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付
家事按分や減価償却の適用で節税幅が広がる
家事按分や減価償却を適用することで、節税の幅を広げることができます。
家事按分とは、プライベートでの支出と事業での支出を明確に区分できないときに、一定の割合で費用を按分する計算方法です。たとえば、自宅の総面積の20%が事業用の執務空間である場合、家賃の20%は事業用の経費として認められるのが一般的です。他にも、車両の走行距離や利用日数をもとに、ガソリン代を案分することなどができます。
なお、家事按分自体は、適切な根拠に基づいた案分割合であれば、個人事業主として開業していなくても適用できます。
また、減価償却とは、車両や高額なパソコンといった「減価償却資産」の購入費用を複数年に配分する会計処理です。償却方法や期間は資産によって異なりますが、「100万円の資産を20万円ずつ、5年間にわたって償却する」などが挙げられます。
減価償却自体は個人事業主でなくても可能ですが、青色申告を活用することで「少額減価償却資産の特例」を利用できます。少額減価償却資産の特例を活用すれば、30万円未満の資産を一括で経費計上することが可能です。「今年は所得が多いから、減価償却せずに一括で経費計上する」など、柔軟に節税できるようになります。通常、10万円以上の固定資産は減価償却が必要であるため、個人事業主として副業を行う大きなメリットといえます。
信用や取引先からの評価向上が期待できる
個人事業主として開業すると、開業届の控えの提示などにより、個人事業主である旨を対外的に証明できます。単なる副業ではなく、本気で事業を営んでいるという印象を与えられ、顧客や取引先からの信用や評価向上が期待できるでしょう。
また、個人事業主として開業すると、自身の事業の名称である「屋号」をつけられます。屋号をつけると、事業内容が顧客や取引先に伝わりやすくなり、屋号付き口座の開設も可能となります。屋号は必須ではありませんが、より信用や評価を高めるために検討しても良いでしょう。
個人事業主になるデメリットや注意点
副業を個人事業主として営むと、以下のようなデメリットや注意点が発生します。以下では、それぞれのデメリットや注意点を詳しく解説します。
- 確定申告の義務が生じる
- 住民税・国民健康保険・年金の負担が増える可能性がある
- 会社にバレるリスクがある
- 事業所得と認められないケースがある
確定申告の義務が生じる
個人事業主として事業規模を拡大して所得を得ると、確定申告の義務が生じます。通常、会社員は年末調整によって1年間の所得税を精算するため、慣れない手続きに手間を感じるかもしれません。
特に、個人事業主として青色申告を行う場合、主に複式簿記での帳簿作成が求められます。基礎的な簿記の知識がないと、帳簿を作成できずに行き詰まってしまう可能性があります。さらに、青色申告では「青色申告決算書」という複雑な書類を確定申告書に添付する必要がある点にも留意しましょう。
とはいえ、現在は取引の内容を入力するだけで帳簿や決算書、確定申告書を自動作成できる会計ソフトが多くあります。会計ソフトを積極的に活用することで、確定申告の手間を最小限に抑えられ、本業と並行しやすくなるでしょう。
住民税・国民健康保険・年金の負担が増える可能性がある
副業を個人事業主として行い、所得が大きく増えると、住民税や国民健康保険、年金の負担が増える可能性があります。
住民税は前年の年間の所得をもとに計算されるため、副業所得が増えると税負担が増加します。さらに、個人事業主としての事業規模が大きくなると、個人事業税や消費税の課税対象になる可能性がある点も留意しましょう。
また、現在配偶者の扶養に入っている場合、個人事業主としての副業で利益が大きくなると、扶養から外れるリスクが生じます。その場合、個人で国民健康保険や国民年金への加入が必要となり、経済的負担が重くなる恐れがあります。
個人事業主としての副業所得が大きくなる場合、将来的に発生する税負担をシミュレーションし、納税資金を残すことが重要です。
会社にバレるリスクがある
開業届を提出して個人事業主になるだけでは、会社にバレることはありません。しかし、以下のようなケースでは、個人事業主として副業に取り組んでいることが会社に知られる可能性があります。
- 会社に通知される住民税の金額が多い
- 個人事業主として発信した情報(ホームページ/SNSなど)が会社の関係者に見つかる
住民税の金額については、確定申告時の住民税の納付方法で「普通徴収」を選び、副業分の税金を自分で納付することで対策できます。しかし、副業を会社に知られるリスクを完全に防止して事業を営むことは基本的に不可能でしょう。
必ず個人事業主としての副業が認められているかを就業規則で確認することが大切です。副業が就業規則で禁止されている場合、懲戒処分などの対象になる恐れがあるため要注意です。
事業所得と認められないケースがある
副業の事業内容や実態によっては、所得が事業所得と認められず、雑所得扱いになるケースがあります。
個人事業主として青色申告を行うためには、所得が事業所得、不動産所得または山林所得のいずれかであることが求められます。雑所得とみなされると、最大65万円の青色申告特別控除を含む各種特典が利用できないため要注意です。
特に、以下のようなケースでは事業所得と認められず、雑所得と扱われる可能性があります。
- 単発の原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得
- 非営業用貸金の利子
個人事業主となるメリットを最大限に活かせず、そもそも開業届を提出する要件にも該当しない可能性があります。
副業を個人事業として成功させるためのポイント
個人事業主として副業を成功させるためには、以下のポイントが重要となります。以下では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
- 会計ソフトの導入で経理作業を効率化する
- 売上・経費の記録はこまめに行う
- 必要に応じて税理士に相談する
- 本業とのバランス・時間管理に気をつける
会計ソフトの導入で経理作業を効率化する
個人事業主として副業に取り組む際は、会計ソフトを導入し、経理作業を効率化させることをおすすめします。
個人事業主として青色申告を行うと、複式簿記での帳簿作成や青色申告決算書の記載が必要です。これらをすべて手作業で行うと、多大な学習コストや労力が発生します。
会計ソフトを導入すれば、基本的な仕訳の知識を学び、取引を入力するだけで、帳簿や決算書、確定申告書の作成が完了します。経理作業が効率化され、限られた時間を事業そのものに充てられるようになるでしょう。
なお、青色申告で最大の65万円の控除を受けるには、e-Taxでの確定申告または電子帳簿保存が求められます。会計ソフトを活用すれば、e-Taxで簡単に確定申告できるため、青色申告のメリットを最大限に活かせるはずです。
売上・経費の記録はこまめに行う
個人事業主として副業を行う際には、売上や経費の記帳は小まめに行いましょう。
なかには、「確定申告の直前にまとめて帳簿を作成する」といった方もいます。しかし、本業との兼ね合いで時間に限りがある副業では、帳簿作成の時間をしっかり取れるとは限りません。特に、個人事業主として取引の数が増えると帳簿作成の負担が重くなり、最悪の場合、確定申告に間に合わないといった事態が考えられます。
また、売上や経費の記帳を後回しにすると、領収書の紛失や入出金の記帳漏れといったミスが出やすくなります。事業に直接関係せず面倒と感じるかもしれませんが、少なくとも月1回程度は売上・経費を記帳しましょう。
必要に応じて税理士に相談する
事業の規模や取引数を踏まえ、必要に応じて税理士に相談することを検討しましょう。税理士に相談して会計業務のサポートを受けるメリットは、以下のとおりです。
- 副業に集中できる
- 帳簿作成や確定申告のミスを防止できる
- 独立・開業した際の人脈になる
特に、普段は年末調整によって1年の所得税を精算している副業ワーカーにとって、確定申告は躓きやすい手続きです。税理士に相談することで、円滑にミスなく帳簿作成や確定申告ができ、安心して副業に取り組めるでしょう。
本業とのバランス・時間管理に気をつける
本業と副業のバランスや時間管理に気をつけることが重要です。
個人事業主として開業しても、副業で取り組む場合は、あくまで優先すべきは本業です。本業を疎かにして副業に力を入れすぎてしまうと、体調不良や本業でのパフォーマンスの低下などを招く恐れがあります。
仕事の量や時間をしっかりと管理し、無理なく継続できる範囲で事業に取り組むことが大切です。
まとめ
本業を持ちながら、副業として個人事業を開業することは可能です。
副業を個人事業主として取り組む大きなメリットは、青色申告を活用できる点です。最大65万円の青色申告特別控除を含む各種特典の活用により、税負担が抑えられ、手元に残るお金を増やすことができます。
しかし、個人事業主として本格的に事業を展開すると、会計業務の手間や税負担の増加といった懸念が生じます。メリット・注意点を適切に把握し、個人事業主として副業に取り組むべきかを判断しましょう。
また、個人事業主として副業を成功させるには、会計ソフトの導入や小まめな記帳などにより、効率的に会計業務をこなすことが大切です。加えて、個人事業主として開業してもあくまで本業が優先であるため、仕事のバランスを取り、無理なく副業を継続しましょう。
個人事業主として本格的に副業を展開すれば、総収入の増加や将来的に独立するきっかけを得られるため、ぜひ参考にしてください。
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