前提として、基本的に起業では資格が必須ではありません。しかし、取得によって起業が有利になる資格も多く存在します。資格の取得によって、専門知識を体系的に学ぶことができ、対外的な信用力も高まります。さらに、法的に資格が必要な業種で起業することも可能です。
ただし、役に立たない資格を闇雲に取得していては、時間の無駄となりかねません。実際の事業運営を通じて必要な知識を学ぶことも可能であるため、起業時に資格を取得すべきかどうかを適切に判断しましょう。
本記事では、起業で役立つ代表的な資格や資格取得のメリット・デメリット、資格なしで起業できる業種などを解説します。「資格取得をすべきか」や「自分の起業で役立つ資格は何か」を理解できるため、ぜひご覧ください。
資格が起業に役立つ理由とは?
資格の取得によって、起業が有利になる可能性があります。資格が起業に役立つ主な理由は、以下のとおりです。
- 事業に必要な専門知識を体系的に学べる
- 対外的な信用力が高まる
- 法的に資格が必要な業種で起業できる
資格取得を通じて、事業に必要な知識を体系的に学べます。たとえば、日商簿記検定の取得によって、日々の帳簿の作成を不備なく行え、決算書を読み解き経営課題を見つけることも可能です。専門知識は実際の実務を通じて習得できますが、事業に必須の基本的な知識については、資格取得を通じて事前に学んでおくのがおすすめです。
また、資格を取得していれば、対外的に「専門性が高い事業者」と証明でき、結果として信用力の向上につながります。開業時の集客や営業に有利になる効果が期待できるでしょう。
加えて、税理士や弁護士など、法的に資格が必要な業種で起業できる点もポイントです。資格が必須の業種で起業すれば、競合他社が少ない業界で戦うことができ、大きな差別化となります。
起業に役立つおすすめ資格一覧
起業に役立つおすすめの資格は、以下のとおりです。以下では、それぞれの資格の特徴を詳しく解説します。
- ファイナンシャル・プランニング技能検定(FP)
- 日商簿記検定
- ビジネス実務法務検定
- ビジネス著作権検定
- 情報処理技術者試験
- 中小企業診断士
- 士業資格(税理士/弁護士/行政書士など)
- 経営学修士(MBA)
ファイナンシャル・プランニング技能検定(FP)
ファイナンシャル・プランニング技能検定(FP)とは、保険や税金、金融、不動産など、お金に関する幅広い知識を証明できる資格です。3級から1級が存在し、合格すると「ファイナンシャル・プランニング技能士〇級」と名乗ることができます。
ファイナンシャル・プランニング技能検定の取得によって、資金繰りや税金、社会保険など、お金周りの問題を適切に管理できるようになります。個人事業主であれば、事業とプライベートを総合的に考慮した人生設計も可能となるでしょう。自身の事業や人生設計に役立てる目的であれば、3級でも十分な知識を得られます。
ファイナンシャルプランナーとして起業する場合、ファイナンシャル・プランニング技能検定の合格は必須ではありません。しかし、対外的な信用を大きく左右するため、実質的には取得が強く推奨されています。起業時に対外的な信用を得るためには、2級以上の取得が望ましいとされています。
日商簿記検定
日商簿記検定とは、企業の経営成績や財務状況を把握・分析するための技能を証明できる資格です。具体的には、日々の経営活動で求められる経理周りに関する実用的な知識を習得できます。
起業を行うと、帳簿の記帳や決算書の作成といった経理業務が必要です。まったくの初心者の場合、つまずいてしまうことが多いため、日商簿記検定の取得を通じて事前に学んでおくことは非常に有効です。
また、決算書の内容を適切に読み解く知識があれば、事業の経営課題や財務状況を適切に把握できます。適切な意思決定や迅速な対応が可能となり、事業の安全性が高まるでしょう。加えて、将来的に公認会計士や税理士などの資格を取得したい方にも効果的です。
日商簿記検定は、3級から1級の3段階に分けられています。起業直後の小規模な経営管理では、通常3級で十分といわれています。より深く財務分析や管理会計を行いたい場合は、2級の取得を目指しましょう。
ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定とは、法務や営業、販売、人事など、ビジネスで必要な法律知識を習得できる資格です。実務に役立つ法務知識を習得することで、事業上の法務リスクを未然に防止できます。
法務関連の業務は顧問弁護士に依頼する場合でも、当事者として事業と向き合えるようになるでしょう。また、法律的な初期対応を自社で判断できれば、外部専門家への依頼頻度を減らせる可能性があります。
ビジネス実務法務検定は、3級から1級の3段階に分けられています。2級を取得すれば、弁護士を含む外部専門家への相談対応ができる水準の知識を習得可能です。
ビジネス著作権検定
ビジネス著作権検定とは、著作権に特化した国内唯一の資格検定です。著作権に関する知識や活用能力を証明でき、著作権侵害といった事業上のリスクを防止できます。
近年はインターネットの発達などが背景となり、著作物を取り扱う機会が増加しています。知らぬ間に他者の著作権を侵害してしまうと、法的責任を負い、対外的な信頼も損なわれるため要注意です。
また、自社の著作物が他者に侵害されるリスクも存在します。自社の著作権が侵害されると、大きな損失につながる恐れがあり、迅速な対応は必須です。著作権に関する専門知識を有していれば、他者の権利を侵害せず、自社の損失も防止できるでしょう。
ビジネス著作権検定は、BASIC・初級・上級の3段階が存在します。BASICは団体受験のみ対応しているため、まずは初級の取得を目指すことをおすすめします。
情報処理技術者試験
情報処理技術者試験とは、経済産業省が認定する国家試験の総称です。計12種類の区分で構成されており、代表的なものは以下のとおりです。
- ITパスポート試験
- 情報セキュリティマネジメント試験
- 基本情報技術者試験
- 応用情報技術者試験
- その他、高度な知識・技能を証明する資格(ITストラテジスト試験/システムアーキテクト試験など)
IT業界で起業する場合、まずは基本情報技術者試験に合格し、応用情報技術者試験などの上位資格の取得を目指しましょう。
また、IT業界以外で起業する方でも、ITパスポートは大いに役立つ資格です。IT関連の基礎知識に加え、マネジメントや経営戦略などの知識も学べます。事業運営に必要な総合的な能力を底上げできるでしょう。
中小企業診断士
中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対して、診断・助言を行う資格です。経営コンサルタントとしての唯一の国家資格であり、対外的に強い信頼性を示せます。経営コンサルタント業務に従事したい方に特におすすめです。
また、経営コンサルタントとして起業しない場合でも、自社の経営戦略や経営課題を適切に分析できるようになります。経営リスクを最小限に抑え、効果的な経営戦略を講じられるでしょう。
令和6年度試験の合格率は、1次試験が27.5%、2次試験が18.7%と非常に高難度です。入念な対策が必要となるため、起業時期や学習計画を踏まえて検討しましょう。
士業資格(税理士/弁護士/行政書士など)
以下のような士業で起業する方は、それぞれの資格試験への合格が必要です。
- 税理士
- 弁護士
- 社会保険労務士
- 行政書士
- 司法書士
- 弁理士
これらの業種で起業する場合、法的に資格の取得や登録が求められます。資格取得と登録をせずに従事してしまうと、法令違反に該当するため要注意です。
また、士業として開業しない場合でも、資格取得によって事業に役立つケースがあります。たとえば、弁護士資格を有していれば企業の法務リスクを抑えられ、行政書士資格を有していれば、法的な書類を自分で作成できます。
ほとんどの試験が高難度で中長期的な学習を要するため、起業時期や学習計画を踏まえて受験を検討しましょう。
経営学修士(MBA)
経営学修士(MBA)とは、経営学に関する大学院の修士課程を修了した方に与えられる学位です。日本では一種の資格として扱われることが多々あります。
起業時に経営学修士を取得することで、対外的に能力が高い経営者という印象を与えられます。また、大学院で経営学に関する専門知識を学ぶことで、効果的な経営戦略やマーケティング、財務管理などを行えるでしょう。大学院での講義を通じて、起業家同士の人脈や別視点のアイデアも得られるはずです。
経営学修士を取得するには、大学院に入学し、通常2年間学び続ける必要があります。時間や数百万円程度の費用がかかるため、中長期的な視点で目的や計画を立てることが大切です。
その他、各業界での起業で有利になる資格
その他、起業する業界によっては役に立つ資格が多くあります。代表的な業界と資格の例は、以下のとおりです。
業界 | 代表的な資格 |
不動産業界 | 宅地建物取引士 不動産鑑定士 |
美容業界 | 美容師免許 ネイリスト技能検定 日本エステティック協会認定資格 |
飲食業界 | 調理師免許 ソムリエ |
アパレル業界 | 色彩検定 ファッション販売能力検定 繊維製品品質管理士 |
法的に必須ではなくても、対外的な信頼性の向上により事業運営が有利になる可能性があります。自身が参入する業界に関連する資格を確認してみましょう。
資格なしでも起業できる?資格が不要な起業例
起業に役立つ資格は多岐にわたりますが、資格なしでも起業できる職種は多く存在します。資格が不要な起業の代表的な例は、以下のとおりです。以下では、それぞれの職種の特徴を詳しく解説します。
- 物販・ネットショップ
- Webサイト制作・ライター・デザイナー
- YouTube・SNSインフルエンサー
- コンサルティング(経験重視型)
物販・ネットショップ
インターネットを通じて商品を販売する物販・ネットショップ運営は、基本的に特定の資格は不要です。物販・ネットショップで成功するためには、資格の有無よりも以下のような点が重要です。
- 商品にニーズがあるか
- 魅力的な説明文であるか
- 使いやすいECサイトであるか
- 商品を認知してもらえるか
特に、商品を認知してもらうためのマーケティング戦略は成功を大きく左右します。Webサイト・SNSの運用やWeb広告など、商品を消費者に知ってもらうための施策に力を入れましょう。
現在は、ネットショップの利用者が増加傾向にある一方で、事業者同士の競争も激しくなっています。競合他社と差別化を行い、市場内でポジションを確立できれば、大きく収益を伸ばせる可能性があります。
Webサイト制作・ライター・デザイナー
Webサイト制作やライター、デザイナーなど、請負ビジネスで起業を目指す場合も特段の資格は必須ではありません。これらの業種は納品物がすべてであり、資格よりも過去のポートフォリオのほうが重要視されます。クライアントが求める水準を満たす成果物を納品できると判断されれば、資格なしでも十分に仕事を受注することが可能です。
ただし、資格の有無がクライアントの第一印象となるのは事実です。これらの職種に関連する資格は、以下のように多岐にわたります。
- ウェブデザイン技能検定
- Webクリエイター能力認定試験
- HTML5プロフェッショナル認定資格
- WEBライティング技能検定
- Webライティング能力検定
また、専門性の高い案件では、特定資格の所持が前提とされているケースがあります。資格を取得して損になることはないため、必要に応じて受験を検討しても良いでしょう。
YouTube・SNSインフルエンサー
YouTube・SNSインフルエンサーとして起業する場合、特段の資格は不要です。
インフルエンサーとして成功するためには、「ファンを作ること」が重要です。資格の有無よりもターゲット層のニーズに合致した質の高いコンテンツを投稿し続けることが求められます。
ただし、セルフブランディングの一種として資格を取得するのは効果的でしょう。たとえば、美容系インフルエンサーの場合、日本化粧品検定(コスメ検定)などを取得することで話に説得力が生まれるはずです。
また、ひとりで活動を行う場合、動画編集やデータ分析の知識も求められます。動画編集検定などの資格取得を通じて、体系的に必要なスキルを習得するのもおすすめです。
コンサルティング(経験重視型)
コンサルティング業であっても経験重視型であれば、資格が不要なケースがあります。たとえば、以下のような経歴や実績を持つ場合、資格がなくても顧客からの信頼を得られるでしょう。
- 人事・採用コンサルタントの場合:人事責任者として計500名以上の採用実績あり
- Web集客コンサルタントの場合:SEO運用歴10年/1年で50万PV達成の実績あり
- インフルエンサーコンサルタントの場合:総フォロワー数100万人を獲得
競合他社と差別化できる経歴や実績がある場合、コンサルタントとしての起業も有力でしょう。一方、目に見える経歴や実績がない場合、資格取得によって対外的な信用を獲得するのが有効です。
資格起業のメリットとデメリット
資格を活かした起業には、メリット・デメリットが存在します。ここでは、資格起業のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
資格起業のメリット
資格起業には、以下のようなメリットがあります。
- 信用力や専門性の裏付けになる
- 参入障壁が高く、差別化が可能
- 法律で許可される業務範囲(独占業務)に従事できる
資格取得によって対外的に専門性を示すことができ、信用力が高まります。結果的に集客や営業に役立ち、収益性の向上につながるでしょう。
また、ファイナンシャルプランナーなど、顧客からの信頼を得るために取得が実質的に前提とされる業種があります。参入する際に資格の所持が求められると、参入障壁が高まり、競合との差別化がしやすくなります。ブルーオーシャンの業界で働きやすく、起業の成功率が高まるでしょう。
加えて、税理士や弁護士、社会保険労務士など、独占業務が定められている資格があります。独占業務が定められている資格であれば、より参入障壁が高まり、安定して仕事を得られるはずです。
資格起業のデメリット
多くのメリットがある資格起業ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 資格取得に時間や費用がかかる
- 資格があるだけでは集客できない場合がある
当然ですが、資格取得には時間や費用がかかります。難関資格になると、数年単位の勉強が必要になるケースも少なくありません。そのため、本当に必要な資格であるのかを慎重に判断することが大切です。
また、資格があるだけで集客に成功するとは限りません。確かに資格を持っていると信頼を得やすくなります。しかし、マーケティングが疎かだったり、サービス自体の質が低かったりすると、決して集客やリピート顧客を得られません。資格を取得して満足せず、集客を行うための努力を怠らないことが大切です。
資格取得前に注意すべきポイント
資格取得前には、以下の3つのポイントに注意しましょう。ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。
- 本当に自分の起業計画に必要な資格か
- 資格取得難易度・費用・期間は適しているか
- 「資格ビジネス」の過剰な宣伝に注意しよう
本当に自分の起業計画に必要な資格か
本当に自分の起業計画に必要な資格であるかを判断しましょう。
先述したとおり、資格の取得には時間や費用がかかります。自分の起業計画に必要のない資格を取得していては、時間や費用が無駄になってしまいます。資格の勉強をしている間に実際に事業に取り組み、実践的な知識を得ることも可能でしょう。
また、資格の取得自体が目的となってしまう例もあるため要注意です。資格は目標を達成するための手段であることを理解したうえで、「資格がどのように活かされるか」を判断しましょう。
資格取得難易度・費用・期間は適しているか
資格取得の難易度や費用、期間によっては、取得を見送るべきケースもあります。
たとえば、経営学修士(MBA)の取得には、通常2年の期間と百〜数百万円の費用を要します。経営学修士は対外的な信用力が高い資格(学位)ですが、起業計画や初期コストの観点から現実的ではない可能性があるでしょう。また、税理士資格や弁護士資格のように、倍率が非常に高い資格もあります。長期の学習期間を要し、必ずしも合格できるとは限りません。
難易度や費用、取得期間によっては、早めに実務経験を積んだほうが実践的な知識やスキルを得られる可能性があるため、事前に確認しましょう。
「資格ビジネス」の過剰な宣伝に注意しよう
資格ビジネスの過剰な宣伝には注意が必要です。
資格ビジネスとは、民間の資格検定を実施することで利益を得るビジネスです。ポジショントークのように、運営者から資格の有用性を過剰に宣伝しているケースが見られます。過剰な宣伝に流されて役に立たない資格を取得してしまうと、時間と費用が無駄になります。
過剰な宣伝に惑わされず、内容や社会的な評価を客観的に確認し、本当に必要な資格であるかを判断しましょう。
まとめ
起業時に資格取得を行うことで、対外的な信頼性の向上や専門知識の習得などが可能です。結果的に集客や営業が有利になり、円滑に事業を軌道に乗せられる効果が期待できます。
しかし、資格の取得には時間や費用がかかります。起業計画に関係のない資格を取得すると、貴重な時間やお金が無駄になる恐れがあるため要注意です。資格の内容や世間からの評判・知名度を確認したうえで、本当に必要な資格であるかを適切に判断しましょう。
まずは本記事で紹介した資格から取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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