起業時に弁護士は必要?依頼すべきタイミングとメリットを解説

事業運営における法務リスクは、多くの経営者にとって課題のひとつとなります。法的トラブルが事業運営の妨げになるケースがあるため、起業時には弁護士への依頼を検討しましょう。

しかし、弁護士の必要性は業種や事業内容によって異なります。報酬の支払いも必要になるため、依頼すべき内容やタイミングを適切に理解し、自分に合った弁護士を選定することが重要です。

そこで本記事では、起業時に弁護士に依頼すべきケースやメリット、選び方のポイントなどを解説します。

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起業に弁護士は必要?

起業時の弁護士の必要性は、業種や事業内容、個々の知識量などによって異なります。

たとえば、ハンドメイド商品の販売や小規模な請負ビジネスでは、契約関係がシンプルであり、法務リスクは最小限といえます。また、基本的な法務知識を持つ人材が存在する場合も、弁護士なしで事業を運営できる可能性があるでしょう。

ただし、「小規模事業者=法務リスクがない」というわけではありません。事業内容によっては小規模事業者でも法務リスクが発生する可能性は十分にあります。特に、起業直後の小規模事業者の場合、社内に法務部門を置くことは現実的でなく、弁護士への依頼が有力な選択肢となるでしょう。

弁護士への依頼形態は大きく以下の2つに分けられます。

  • 顧問契約を締結
  • スポットで相談

それぞれ費用の性質や信頼関係などが異なります。そのため、「弁護士への相談は必要か」や「顧問契約すべきか」を適切に判断することが重要です。

起業時に弁護士に依頼すべき主なケース

起業時に弁護士へ依頼すべき代表的なケースは、以下のとおりです。以下では、それぞれのケースについて詳しく解説します。

  • 法人設立手続きに関するサポート
  • 契約書の作成・確認
  • 知的財産権の保護
  • 労務管理・雇用契約
  • 資金調達・出資契約のリーガルサポート

法人設立手続きに関するサポート

法人設立に関する手続きについて弁護士から助言を受けることで、将来起こり得るトラブルを未然に防止できます。具体的には、以下のような決定事項では弁護士による法的な視点での意見が非常に有用です。

  • 定款(商号/資本金/取締役会の組織化など)
  • 設立登記の内容
  • ビジネスプラン

定款や設立登記の手続きに問題があると、修正・再提出が二度手間となります。また、事前に重要事項を決めていなければ、組織内での意見の食い違いやトラブルに発展する恐れがあります。

加えて、ビジネスプランの適法性も事前に必ず確認すべきです。法務知識がないと判断できない場合や、許認可が必要になる場合でも、弁護士に相談すれば適切な助言が得られます。さらに、事業運営において起こり得る法務リスクも事前に把握できるため、安心して起業手続きを進められるでしょう。

契約書の作成・確認

契約書の作成時や確認時には、弁護士に依頼して適切な内容か判断してもらうことをおすすめします。

起業後に顧客と取引を行う際は、契約書の作成・締結が不可欠です。取引条件や免責事項といった項目に不備がある場合、取引先との予期せぬトラブルが発生する恐れがあります。

また、インターネット上では契約書のテンプレートが配布されています。しかし、以下のような理由から、そのまま使うのにはリスクが伴うため要注意です。

  • 最新の法律が反映されているとは限らない
  • 自社の事業内容や取引の特性に最適化されているとは限らない

弁護士に作成・確認を依頼することで、法的に問題ない契約を締結でき、不要なトラブルを未然に防止できます。万が一トラブルが生じても、法的な根拠が明確な契約書であれば、交渉や訴訟を有利に進められるでしょう。

加えて、しっかりとした契約書を用意すれば、取引先からの信頼も得られるはずです。

知的財産権の保護

商標権や著作権を含む知的財産権の保護に関しても、弁護士への相談を行うべきです。

  • 商標権:商品のネーミングやマーク(商標)を独占的に使用できる権利
  • 著作権:自社が創作した作品(著作物)を他者に許諾なしで使用されない権利

サービス・商品の固有名称やマーク(商標)は資産となり、ビジネスの差別化に直結します。これらの模倣を防止し、企業の利益を守るためには、商標登録の手続きが重要です。

また、現在はインターネットの発展などを背景に、著作権管理の必要性も高まっています。自社の著作権が侵害されると、売上の減少や信頼性の低下を招く恐れがあるでしょう。

このように、商標権や著作権を含む知的財産権の保護は、事業運営における重要な課題となります。

さらに、自社が他社の商標権や著作権を侵害するリスクも考えられます。他社の権利を侵害してしまうと、差止請求や損害賠償請求を受ける恐れがあり、第三者からの信頼も低下するため注意が必要です。

弁護士に知的財産権に関連する相談を行うことで、自社の権利を保護でき、他社の権利を侵害してしまうリスクも防止できます。

労務管理・雇用契約

労務管理や雇用契約は弁護士に相談を行うべき項目です。具体的には、以下のような内容を事前に弁護士に相談しておくと安心です。

  • 従業員を雇う際の注意点
  • 就業規則の作成・確認
  • 労働法を遵守した環境整備
  • 労働条件の変更や従業員の解雇
  • 組合から団体交渉を求められた際の対応
  • 労働基準監督署への対応

労務管理や雇用契約が不適切だと、企業内部での紛争や、労働基準監督署からの指摘につながる原因となります。人材確保が難航したり、法的な責任を負ったりする恐れがあるため要注意です。

労務管理や雇用契約について弁護士に相談すれば、適法な労働環境の整備や人材採用が可能となります。万が一、労働基準監督署や組合の対応が必要となっても、慌てずに対応できるようになります。

資金調達・出資契約のリーガルサポート

資金調達や出資契約のリーガルサポートを弁護士に依頼することも推奨します。

たとえば、投資家からの出資により資金を調達する場合、企業と投資家間で契約書の締結が必要です。この際に、企業が不利になる条件が提示されることが少なくありません。弁護士に契約書の内容を確認してもらうことで、不利な契約を避けられ、スムーズに交渉を進められます。

また、資金調達時に必要な事業計画書の作成では、会社法や税法、証券取引法などの知識が求められます。法律を遵守し、リスク管理まで徹底した事業計画書を提出すれば、信頼感が向上し、資金調達の成功率が高まるでしょう。

起業時に弁護士へ相談するメリット

起業時に弁護士へ相談するメリットとして、大きく以下の3つが挙げられます。以下では、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

  • 法的リスクを未然に防止できる
  • ビジネスの信用力が向上する
  • トラブル発生時に迅速かつ有利に対応できる

法的リスクを未然に防止できる

起業時に弁護士に相談することで、法的リスクを未然に防止できます。

たとえば、契約書や利用規約の作成・確認を弁護士に依頼して不明瞭な項目をなくせば、取引先とのトラブルや紛争を防止できます。また、事業内容や労務管理に関する相談を事前に行えば、「知らぬ間に法律を犯していた」といった事態も避けられるでしょう。

加えて、自社の事業内容の特性を踏まえ、将来起こり得るトラブルやリスクを事前に把握できる点もポイントです。リスク管理をしながら事業運営を進められ、万が一トラブルが起きても落ち着いて対応できるはずです。

法的なリスクを未然に防止できれば、経済的な損失を抑えられ、手間となるトラブル対応も不要となります。

ビジネスの信用力が向上する

起業時に弁護士に相談することで、ビジネスの信用力の向上につながります。

たとえば、契約書や利用規約が法的に整備されていれば、取引先や顧客に対して信頼できる企業という印象を与えられます。さらに、法的なトラブルに対する対応が迅速であれば、安心感を感じてもらえるでしょう。

また、スポット相談でも十分に効果を期待できますが、顧問契約を締結すれば、さらなる信用力の向上につながります。一例として、企業のホームページや公式文書に顧問弁護士の情報を記載すれば、コンプライアンスを遵守している企業と判断してもらえます。

結果として、長期的な取引や新規顧客の獲得、融資の審査に通過する確率の向上などにつながるでしょう。

トラブル発生時に迅速かつ有利に対応できる

トラブル発生時の対応を迅速かつ有利に進められる点も、起業時に弁護士に相談するメリットです。

弁護士に相談したうえで、あらかじめ起こり得るリスクやトラブルを把握していれば、すぐに対応に着手できます。さらに、契約書が法律に則っており、細かい項目まで定められていれば、話し合いや紛争を有利に進められるでしょう。

また、弁護士と顧問契約を締結していれば、より迅速にトラブルに対応できます。トラブルが起きた際に一から弁護士を探す必要はなく、企業の情報もあらかじめ共有できているためです。顧問契約を締結しない場合でも、トラブル時に依頼する弁護士を決めておけばスムーズに対応できるでしょう。

弁護士に相談するベストタイミングとは?

起業時には、準備段階から弁護士に相談するのが理想的です。定款の内容や法人設立の手続き、事業プランの作成について専門的な助言を得ながら準備を進められます。結果として、スムーズに起業手続きを進められ、開業後のトラブルも防止できます。

また、準備段階で弁護士に相談できなくても、具体的な事業プランが固まったタイミングで一度依頼すると良いでしょう。事業プランが適法でなかったり、必要な資格や許認可を取得していなかったりすると、起業直後に大きくつまずいてしまいます。

他にも、契約の締結前や資金調達の直前など、法的なトラブルが起きやすいタイミングでは弁護士に相談すべきでしょう。トラブルが起きてからではなく、起きないように事前に相談することが大切です。

事業内容や資金計画によっては、弁護士と顧問契約を締結し、いつでも相談できる体制を確立しておくのも有力です。

起業時に弁護士を選ぶ際のポイント

起業時に相談する弁護士を選ぶ際には、以下のポイントに着目しましょう。以下では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。

  • スタートアップ支援の実績があるか
  • 相談しやすいか
  • 費用体系が明確か

スタートアップ支援の実績があるか

起業時の相談先は、スタートアップ支援の実績がある弁護士がおすすめです。スタートアップと既存の企業では、取り扱う相談内容が異なります。「大手企業の実績があるから」などの理由で選んでしまうと、思うようなサービスを受けられない可能性があります。

依頼する弁護士を選ぶ際は、過去にどのような企業を支援してきたかを確認しましょう。また、得意な分野は各弁護士で異なるため、精通している分野もあわせて把握すれば、目的に合ったサービスを受けやすくなるはずです。

相談しやすいか

相談しやすい弁護士を選ぶことも重要なポイントです。具体的には、自社のビジネスや業界に理解があり、実践的なアドバイスをしてくれる弁護士が理想です。

また、弁護士とスムーズにやり取りを行い、迅速に問題解決を図るためにも、以下のような要素に着目しましょう。

  • レスポンスが早いか
  • いつでも連絡できる電話番号を共有してもらえるか
  • 気軽に相談できる雰囲気があるか

相談しづらい弁護士だと、緊急時の対応が遅れたり、円滑にビジネスを進められなかったりする恐れがあるため要注意です。

費用体系が明確か

弁護士に依頼を行う際は、料金体系も重要なチェック項目です。料金体系が明確であれば、企業の予算に合わせて安心して相談できるでしょう。

具体的には、ホームページ上で料金体系が明確に記載されている弁護士がおすすめです。サービス内容に応じて複数のプランが提供されていれば、より無駄なく依頼できるでしょう。

まとめ

事業運営における法的リスクに備え、外部からの信用を得るためにも、起業時には弁護士への相談を視野に入れましょう。弁護士に法人設立やビジネスプラン、知的財産権、労務管理などを相談することで、法的なトラブルに備えられ、企業の損失を防止できます。

ただし、弁護士への依頼の必要性は、個々の業種や事業内容によって異なります。依頼には費用が発生するため、特徴やメリットを把握したうえで「自社は弁護士に相談すべきか」を適切に判断しましょう。

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